うのたろうです。
「もか吉」をご存じですか? もか吉は和歌山県在住の……犬。それもただの犬じゃない。野良犬からボランティア犬になったというちょっぴり変わった経歴を持つ犬。それが「もか吉(オス/4歳)」です。

そんな「もか吉」が本になり2015年12月発売されました。このもか吉、いったいどんな犬なのでしょうか?

もうすでにざっくりとした紹介はしちゃいましたが、引き続きごらんください……

「もか吉」とは?

現在、和歌山県の介護施設でお年寄りとの時間をすごしたり、街の防犯パトロールをしたりしてすごしています。そしてもちろん、吉増家の飼い犬としてもね。

そんな充実したしあわせの日々を送っている「もか吉」が野良犬からボランティア犬になった今までの経緯を見ていきましょう……

①名前のない、野良犬

当時、名前のない野良犬だったもか吉が現在の飼い主である吉増江梨子(よしますえりこ)さんに拾われたのは今から4年まえ――2011年のころでした。

きっかけは一本の電話。
元動物病院看護師の吉増さんのもとにその電話はかかってきました。
電話の主は同居している義母の友人。つまり、だんなさんのお母さんのお友達。じゃっかん距離があるような気もしますが、そんな距離のある方からの電話ということは緊急事態ということのあらわれでもあります。

事実、その電話は緊急を要するものでした。

「家のまえのどぶ川に、野良犬のメスが生んだ仔犬が3匹いる」

こういった内容です。
家のまえに野良犬の子どもがいる――しかも肝心の親犬はいぬ。ダジャレじゃなくて本当です。どうやら、その母犬は自分の子どもをどぶ川に放置して戻らなくなってしまったそうです。べつの場所に男でもつくったのでしょうか。なににせよ、残された仔犬にとってはのっぴきならない状況です。

そこで電話を受けた吉増さんはすぐに現場に急行します。
さらに悪いことに翌日の天気予報は雨でした。急いでいきその日のうちに保護しなければ川の水は増水しとり返しのつかないことになってしまう恐れさえあります。

手にはバスタオル、エサ、ダンボールなどなど……それらを積みこんだ車を走らせ義母の友人宅のまえのどぶ川に。そこで目にしたのは3匹の仔犬。電話の通りにどぶ川の側溝に隠れるようにしておさまっています。

話しをきくとどうやら母犬が戻ってこなくなってから一週間ほどが経過してしまっているようです。吉増さんは側溝に手をいれ3匹の仔犬を保護しようとします。

3匹の仔犬のうち2匹はその手をかいくぐり逃げてしまいます。1匹だけ逃げる体力もなくぐったりとしているその犬だけが残りました。人に慣れていないのでしょう。わずかな抵抗を見せましたが、そのままダンボールにおさまりました。

②保護された、野良犬

保護されたその仔犬は生後2ヶ月ほどのちび犬でした。
とうぜん身体はノミとダニにまみれています。ノミが飛び跳ねダンボールにバチンバチンとぶつかります。それはまるで家のそとの雨のよう。予報通り、そして予想通りやむ気配はありません。

そこで吉増さんは駆除薬を使うことにしました。この状態では動物病院につれていくことさえできません。まずは身体じゅうにびっしりと巣くっているノミやダニを駆除しなければいけないのです。

駆除薬をつかい24時間が経過すれば、身体じゅうの虫を退治することができます。
しかし状況は予断をゆるしてくれそうにもありませんでした。
なぜならその犬はたっぷりとダニに血を吸われすでに貧血状態だったのです。歯ぐきや目のふちなどすでに真っ白。一分一秒を争う状況というものが目のまえの小さなダンボールのなかにありました。

そこで吉増さんはみずからの手でダニの駆除を開始します。
ピンセットで一匹いっぴき、皮膚にへばりついているマダニを引きはがしていく作業を始めるのです。窓のそとの雨の音とは対象的に、その犬は鳴き声ひとつあげずに身体を横たえ、吉増さんの行動にそっと身をまかせていました。

③名付けられた、野良犬

出典 http://profile.ameba.jp

じつはアメブロにいます!

その後、動物病院にいき連日の治療を受けたその仔犬はなんとか一命をとりとめました。
駆除薬の効果を待たずにピンセットを使った吉増さんの機転があったからこそ、その命はこの世界につなぎとめられたのです。

ひとまず命の危険がないほどに元気をとり戻したその犬は吉増さんの家に飼い犬として迎えいれられることになります。

いっしょに暮らす――そのうえで最初に必要なものは「名前」でした。

「もか吉」

それは吉増さんの長女がかつて飼おうとしていた猫につける予定だった名前「もか」からとったものでした。名前のない野良犬が、唯一無二の「個」として誕生した瞬間でした。

④飼い犬「もか吉」の誕生

もか吉は愛想がありません。
無表情で人に対して無関心。おまけに極度の拒食。ヒトがあたえるドッグフードはいっさい食べず、また仔犬らしさのかけらもないそんなすれた野良犬でした。

そんな彼がこのんで口にするのは散歩の途中の道に転がるカエルの死骸やタニシの卵だったそうです。たった生後2ヶ月といえども染みこんだ野性は彼を野良犬から飼い犬はしてくれません。

そこで吉増さんは「もか吉」を幼稚園にいれることにします。
動物病院に併設されている「犬の幼稚園」に入園させ、ほかの犬やトレーナーといっしょにすごすことでもてあますエネルギーを発散させ、また社会性を学ばせようとしたのです。

これが功を奏しました。
もか吉はみるみる感情をとり戻します。表情が生まれ躍動感が生まれます。そんな日々をすごすなか、もか吉はすっかり幼稚園になじみました。

幼稚園では仲よしのお友達もでき、その結果、吉増さんの家族にも慣れてきました。飼い犬「もか吉」が生まれた瞬間です。

⑤飼い犬の受難

しかし、それで万事OKというほど自体は甘くありません。
飼い犬となったもか吉には、まだまだ問題が山積みです。

まずは吉増さんのだんなさん。そして畑仕事の男の人。

こういった大人の男性に、もか吉はどうしても慣れないのです。
理由はトラウマだろうということです。野良犬時代に、きっと心ない大人の男性にいじめられたのでしょう。ひどく怖がり、吐いてしまう。そんな状態が続いていました。

また、もか吉には食事の面でも問題がありました。
あいもかわらずドッグフードが食べられません。正確には気持ちの面では食べられるのですが、身体の方がドッグフードを受けつけてくれなかったのです。

食物アレルギー――それも極度のものです。

そのため、もか吉が口にできるものはせいぜい米と芋くらいしかありません。ほかのものを食べると、身体じゅうがかゆくなり床をのたうちまわってしまうのです。吉増さんは連日、芋がゆをつくり、もか吉に食べさせてあげていたそうです。

また吉増さんはもか吉の食事をくふうしてあげました。
ほかにもサプリメントを試してみたり、もか吉の身体が良くなればと足しげく薬浴に通ったり、また外気やさまざまなものからもか吉の身体を守るため服を着せたりとありとあらゆる努力をしたのです。

だんなさんに慣れさせる方法は幼稚園のトレーナーの言葉を実践しました。

吉増さんのだんなさんは帰ってきても、もか吉と目をあわせない。「ただいま」とひと声かけるだけ。そして、さりげなくもか吉が好きなおやつをその場にぽとりと落としていく。それを毎日まいにちくり返していくことにします。

⑥飼い犬の転機

そんな日々のさなか、もか吉は幼稚園の先生といっしょに老人ホームをおとずれることになります。もか吉が拾われて半年後のことです。

目的はボランティア――動物とふれあうことで心を癒す「セラピー」を施すため。このころになるともか吉は本来のおっとりした性格をとり戻していたのです。

そんなもか吉のボランティア犬としての適性を発見したのは「犬の幼稚園」の先生でした。CAPP和歌山チームリーダーでありながら犬の幼稚園でトレーナーを務める石田千晴さんです。

CAPPとは……


Companion
Animal
Partnership
Program


保健所職員が先生となり、市内のボランティアが愛犬(日本動物病院福祉協会が実施する審査により適性ありと認められた)をつれて参加する活動――CAPP活動(=人と動物のふれあい活動)をおこなう団体。

CAPP和歌山チームリーダー兼犬の幼稚園でトレーナーである石田千晴さんはいいます。


「もかちゃんはすごく変わった。人が好きになり、男性が苦手なところも克服した」


そうなんです。このころになると、もか吉は男性に対する苦手意識がなくなっていました。吉増さんのだんなさんとも一年かけてしっかりした関係を築き上げたのです。

また、もか吉は人見知りをせず甘え上手で性格は穏やか。しかも安定している、安心できる子なのだと、石田千晴さんはいいました。

その言にしたがい、もか吉は県と市が小学校でひらく動物愛護教室に参加するための審査を受けることにします。2012年7月のことです。やはりプロの見立ては間違っていませんでした。もか吉はその2つの審査をぶじ通過し、この年ボランティア犬としてデビューすることになったのです。

⑦ボランティア犬の誕生

審査を通過したもか吉は、はじめ高齢者施設へでむくことになります。
見習いから始め、ゆっくりとしたデビューを飾り、もか吉はたくさんのお年寄りを癒し、たくさんのお年寄りに元気をあたえていきました。

もか吉はとくに芸ができるわけではありません。
ただそこにいるだけ。だっこされたり、なでられたり。されるがままに自分自身も楽しみます。

そんなもか吉の最大の特技は「ドラえもん」ののび太とおなじ。
どこでも、こてんと寝られること。その愛くるしい姿にたくさんのお年寄りやその家族が魅了されました。

もか吉の活動エリアはじょじょに広がっていきます。
じっさいに犬とふれあいながら、犬との接し方、生き物、飼う責任を学んだり、また命について考える連続授業をおこなう「わうくらす」への参加。小学校の登校時間に子どもたちを見守る(散歩兼)パトロール活動など、さまざまな活躍を見せています。

さらには娘さんが通う小学校での人気者にもなろ学校のPTAの新聞にも、もか吉のコーナーがつくられることにもなり、その結果、もか吉には編集長の称号があたえられるまでにいたったのです。

名もない野良犬からの大出世です。
もっとも、本人(本犬)は偉くなったなんて意識はこれっぽっちもないでしょうが。そして2015年12月現在……

⑧ボランティア犬・もか吉、本になる!

今では、もか吉は毎日大忙しです。
目印の黄色いバンダナを首に巻き毎日登下校中の小学生を見守る防犯パトロール(兼散歩)にでかけ、その傍ら週に4度も高齢者福祉施設のセラピーや小学校の愛護教室の仕事もこなしています。

そんなもか吉の現在の日々のようすが、じつはアメブロで読めるのです。それがこちら。

さらには、そんなもか吉の今までの軌跡が一冊の本になり発売されました。


「家族の愛犬から、地域へ──もか吉、ボランティア犬になる。」
【価格】1512円


なんだか読んでみたくなったでしょ?

まとめ

2011年にうまれた名もない野良犬が2012年7月にボランティア犬としてデビューを飾り、2015年12月にはその軌跡が本になる。

この奇跡の連続はあるひとりの女性の勇気ある電話から始まり、吉増さんの行動力から紡がれていったものです。

もし、あのとき電話をせず仔犬を放置してしまっていたら。
もし、その日にダンボールを持って駆けつけていなかったら。

できることを、今やる。

そういったひどくあたりまえで、だけれどもひどく難しい一歩を踏んだからこそ得られた光の未来――それが、今の「もか吉」や彼のまわりの現在なのでしょう。

ぼくも物書き。
あまり優秀なんかじゃありません。
とくに芸は持ちません。
甘え上手で散歩が好きです。

誰か、ぼくを見出してはくれないものでしょうか。

バウワウ。
側溝からソッコーででていくんだけどな、ぼくの場合。
この仄暗い街の底のすみっこの、そんな場所からさ。

ぼくもしっかりやることやろう。
もか吉のようにね。

うのたろうでした。

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