「一番欲しいもの」

5歳の誕生日を目前にした息子、そのあとにはクリスマスも控えているし、そろそろプレゼントを用意しようかなと思って聞きました。

「もうすぐお誕生日だね。プレゼント何にしよかな?世界中でいーちばん好きな物はなに?これ絶対にほしい!!ってものある?」

私の質問に、息子は頷いて答えました。

「パパ」

パパは一年前に亡くなっています。もう帰ってこないこともわかっているはずなのに、敢えてのこの答え・・・。私は、首を振って、

「パパは死んじゃったから、どんなに願っても帰ってこないんだよ。」と言いました。

すると、息子は少し笑っていいました。

「わかってるよ。でも写真があるよ。いっぱい写真がある。だからいいよ。」

このあと、おもちゃ屋さんに誘っても「何もいらない。おもちゃはもう持ってるし、服もある。」の一点張りで、中々プレゼントが決められず、夫と息子の写真200枚をプリントアウトしてアルバムを作りました。親の自己満足で、他のプレゼントも用意しようと思いますが、息子が一番喜ぶのはきっとこのアルバムです

価値観が変わった?

息子も、父を亡くすまではおもちゃ屋さんが大好きな子どもでした。お店で、あれやこれを指さして「欲しい、欲しい」と言うこともありました。だけど、おもちゃを欲しいと言わなくなりました。家にある、パパに買ってもらったおもちゃを大事にしています。もしかして、価値観が変わった?

そういえば、自分もそうだとハッとしました。

夫が生きていたころは、欲しいものや、行きたいところ、したいことってもっと明確にありました。でも、今欲しいものと聞かれても、答えは「特にない」です。しいていうならば、夫と共に生きた日々ですが、無理な事はわかっています。それ以外では、息子と穏やかに幸せに暮らす日々があれば満足です。

死別してから、価値観や人生観はひっくり返りました。自分だけだと思っていたけれど、まさか、たった4歳の子供でもそんなことがあるなんて思ってもみませんでした。

死別後の価値観の変化

死別を経験した人を対象に取った様々なアンケートをみていくと、伴侶をなくした人では七割以上の人が、子供を亡くしたひとの8割以上が「人生の価値観が変化した」と答えています。

たった3年半の事だったとはいえ、生まれてからの毎日を、共に生きてきた存在が亡くなったという事は、複雑な思考回路を持たないだろう小さな子供にとってもとんでもなく大きなインパクトを残す大事件だったんだと改めて気づかされました。確かに、成長するにつれて記憶はうすれていくかもしれません。大きくなったら、覚えているのは写真の中の父の姿だけでしょう。しかし、この「喪失感」というものは、小さな彼の人生においても、彼なりに持っていた価値観をひっくり返すぐらいの衝撃的な経験だったのです。

まとめ

死別というのは、様々なライフイベントの中でも群を抜いて特別な経験です。100歳に届くぐらいまで長生きして、「大往生だね」とみんなに見送られて亡くなる死別でも悲しみはもちろんあり、喪失感も大きなものです。

ただ、この自分の人生を揺さぶり、価値観をひっくり返すような死別というのは、特に故人が若かった場合ではインパクトがとんでもなく大きいと言えるのではないでしょうか?まだ自分自身が「死」からほど遠い年齢にある人が「死」を目撃し、大切な存在が一瞬にして掻き消えてしまうという経験をする事は、その人の人生観を180度ひっくり返してしまうほどの衝撃となり得ます。

息子は、わずか3歳にして、目の前で「命が掻き消えていく瞬間」を目の当たりにしてしまいました。その日を境に、二度と会えなくなった大切な「父」という存在。どんなに泣き叫んでも二度と抱きしめてもらえない、名前も呼んでももらえない・・・そんな事を経験して、息子は少し変わりました。

トラウマは大きかったけれども、「本当に大切なもの」「本当にほしいもの」をちゃんと見極めて話します。この学びは、時がたつにつれてインパクトが薄れていっても、息子の中で核として残っていく気がしています。苦しく悲しい経験をしてしまったけれど、そこから得るもの、学ぶことは、彼の人生においてかけがえのない宝となり、彼を支えていってくれることと信じたいです。

この記事を書いたユーザー

Maria このユーザーの他の記事を見る

オーストラリア在住。息子が生まれて一年半後、夫はアスベストが原因の悪性中皮腫という、これといって有効な治療法もない、強烈な癌を発症。そして、二年の闘病を経て他界しました。今は、5歳になった息子と二人、夫の眠る地で、毎日を大切に生きています。中皮腫の闘病記・アスベストの事・死別後の息子との二人三脚の毎日をブログに綴っています。http://ameblo.jp/maria1428

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