ボカロPの「ハチ」として、ニコニコ動画で絶大な人気を誇っていた米津玄師。11月に発表した3枚目のアルバム『Bremen』はオリコン1位を獲得、さらには日本レコード大賞 優秀アルバム賞にも輝くなど、今年最も飛躍したアーティストの1人と言っても過言ではない。

「Spotlight、見たことありますよ」とネットへの造詣の深さを見せてくれた彼に、今回編集部で特別インタビューを敢行。ニコ動からメジャーの音楽市場へと活動場所を変えてもなぜ受け入れられ続けたのかを、言葉の節々から探ってみた。

――この度は、『Bremen』レコ大優秀アルバム賞おめでとうございます。今年一年を振り返ってみていかがですか?

米津:ありがとうございます。今年はとても充実した一年だったなと思いますね。一昨年の2013年が自分としては全然ダメな年で。色々なことに焦っていたというか、あれやんなきゃこれやんなきゃみたいな、ずっとそういう精神状態で空回りして、何かよくわからないことになっていました。

――その精神状態から脱却できたのは、米津さん自身内面に何か変化があったということでしょうか。

米津:色々なことを考えなくなりましたね。無理矢理にでも楽しもうというか、あれこれ考えたところでそんなに意味が無いなと思うようになって。自分が今やれることだけを、ただひたすら追いかけていくと決めてからは結構楽しいです。

――昨年初めてライブを行って、今年は初の夏フェス出演に全国ツアー。年々人前で曲を披露する機会が増えています。

米津:ライブは苦手意識が凄く強くて、本当はやらずに済むなら一生やらないで済ませたかったんです。

でも、人に向けて音楽を作っていくとなると、必然的にやらなければいけないことかなと思うようになって。いざやり始めて、一番大事にしなきゃいけないと気付いたのが、やっぱり“楽しむこと”だったんです。楽しむという感覚が無くなってしまうと、多分二度とやりたくないと思うから成立しないなって。まだライブに関しては不甲斐ないところとか、ダメな部分は色々あるんですけど、それを考えずに、とりあえずは楽しむようにしています。

――11月には以前から聴いていたというRADWIMPSとの対バンもありましたね。

米津:RADWIMPSは高校生ぐらいの頃からずっと聴いていて、本当に心の底から尊敬できるバンドだったんです。その人たちと同じステージに立てるというのは凄いことだなと思うし、高校生の自分と今の自分、点と点で繋がった気がして、とても意義のある時間だったなと思います。

――オリコン1位を獲るというのは1つの節目のように思えますが、今後の目標はありますか?例えば武道館でライブをするとか。

米津:武道館でやりたいとか、そういうのはあまり無いですね。武道館より横浜アリーナのほうが大きいわけですから。それにも関わらず武道館の方がバリューとしてはあるという、それが全然わからなくて。なぜみんなやりたがるんだろうと今でも思っています。

目標と言われてもそんなに明確なものは無いんですけど、昔から自分はジブリ映画が好きで。幼稚園児が惹き込まれるような気持ちのいい動きをしていながら、おじいさんおばあさんが見ても楽しめる文脈構築力があるという、作品として凄く強度を持ったものだと思うんです。そういうものを作りたいなという漠然とした目標はあります。

――今年は米津さんが良い意味での“大衆性”を獲得した年だったと思います。ネットで創作活動を始めた頃からそこは目指していましたか?

米津:はい。ボカロを作っている時からずっと、人前に立って自分の顔を出して自分の声で歌を歌って、自分の名前で表現するということに対して憧れはありました。

当時はニコニコ動画という大きい場所があって、その中でどう受け入れられるかということばかり考えていたのですが、その後に自分の名前で“ボカロ”というところから離れて何かやっていくとなったら、それだけじゃない、もっと違う新しい方法論を構築する必要があって。それはずっと考えていましたね。

――「方法論」と仰られましたが、今回は米津さんのこれまでのネット活動についてもお聞きしたいと思っています。ニコ動はもちろん、以前からTwitterだったりツイキャスだったりと、ネットを使って自身を表現し続けていますよね。

米津:そうですね。ネットで見たり聴いたりしたことが今の自分の血肉になっていて、半分ネットに育てられたなとも思っているんです。そもそもニコニコ動画から出てきた人間だし。だからツイキャスも「心地いいな」と思って今でもやっているんですけど。

――そういうルーツもあってか、米津さんに対してはネット上の批判的な声も少ないですよね。自分の評判とかネットで調べたりすることもあるんでしょうか?

米津:最近はしなくなりましたね。もう心が持たないです(苦笑)。昔は本当に気にしていたし、逐一エゴサーチしていたんですけれど、それは不毛だなと思うようになりました。

ただ、ネット出身の人間には多い気がするんですけれど、客観的に自分がどう映っているかというのは常に気をつけてはいます。こんな言葉を発信したらどういう反応が返ってくるのか、わかりやすく目に見えるじゃないですか。その環境に身を投じていると、自分を俯瞰で見ることがクセになってきますね。

――米津さんはTwitterにもたくさんのフォロワーがいると思いますが、そういった場所での発言や振る舞いにも気をつけているのですか?

米津:そうですね。音楽というのは音源だけじゃなくて、自分の言動とかも込みで音楽だと思うんです。どういう音楽を作ったのかとか、自分がどういうことを考えているかとか、表現するにしても色々言葉を選ばなければならないなと思うし。こういうことをいうのもあれですけど、一体どういう音が鳴っているとか、その曲でどんなことが表現されているのかとか、全て理解して聴いてくれる人はほとんどいないですね。

やっぱり人間は印象がほとんどだから、曲の上っ面がどうとかはとても重要なことなんです。それは物凄いグロテスクなことだし、嫌だなとも思うんですけど。

だけど、ただひたすら「俺はいい曲を作っているんだ聴いてくれ!」と言葉にするだけじゃダメなんですよね。もっと他に良いやり方を自分なりに模索していくというのは大事なのかなと思います。

――先ほど「俯瞰」と仰られましたが、なぜ自分がここまで売れたか、ご自身でどう分析しているのかも気になります。ちなみに、ニコ動で作品を公開していた当初から、(オリコン1位を獲る)今の状況はイメージできていたんでしょうか?

米津:はい。できていました。

――おお、それはすごいですね。

米津:昔は本当に何の根拠もない自信があって、自分が作る音楽は世界一素晴らしくて確実に評価されるものだと思っていたんです。

じゃあ実際、他のミュージシャンが作る曲とどこが違うのかと言われたら、ほんの少しの違いしか無いと思っていて、その“ほんの少し”というのが凄く大事なんだろうなと思います。例えば短距離走が、たった0.1秒の差で金メダルと銀メダルに変わってしまうような話なんだろうなと。「神は細部に宿る」と言ったりするじゃないですか。そういうことなのかなと思っています。

――自分の作品をより多くの人に知ってもらうために、どういった力が必要だと思いますか?

米津:客観的に自分を見る能力と自己批判ができる能力がある人間が、例外なく大きくなっているなという感じがします。

――自己批判というのは「これじゃ面白く無いんじゃないかな」という?

米津:自分が今やっていることに対して、じゃあ何が足りないのかとか、自分は一体どういう人間で何をしてこなかったのか。そういうものをきちんと理解分析できる、そういう能力はすごく大事だなと思うんです。

出典UNIVERSAL MUSIC JAPAN

――プライベートなことについても少し質問させてください。上京してから約5年、東京の生活はいかがですか?

米津:徳島の田舎から東京に出てきて変わったことがあるかといわれると、そんなに変わってはないなとは思うんですけれど、東京は本当に過ごしやすいですね。良くも悪くも、お互いにあまり関心がないじゃないですか。田舎は否が応でも横のつながりを大事にしなければいけないというのがあって…。東京は何をしていても自由というか、何も気にしなくても生きていけるので自分に合っていると思います。

――多忙の毎日だと思いますが、仕事がない時は何をしていることが多いですか?

米津:「仕事をしていない時」と言われると難しいですね。あまり音楽を作ることを仕事だと思ってなくて、いまだに遊びの延長線上という感覚もあるので。大体音楽を聞いたり曲を作ったりしていますが、そういう意味では常に仕事をしているんだろうなとも思います。

――アーティストとしての米津さんは、クールで謎めいている印象が強いですが、グっとテンションが上がる瞬間もあるんでしょうか?例えば曲作りをしていて、いいフレーズが浮かんだら部屋で叫んでいるとか(笑)。

米津:それは昔からあります(笑)。本当にいい曲やいいメロディーが出来た時は、めちゃくちゃテンションが上がります。何時間もその曲ばかり弾いたり、それを聴きながら走りに行ったり。多分こういう時が人生で一番楽しいですね。

曲作りにおいてもデモを作っている段階が一番楽しくて、その後はパッケージングするために集中しなければいけないので、どんどんテンション的には下がっていきます。

――若い人たちの中には米津さんのように「音楽で売れたい」「有名になりたい」など様々な自己実現欲求があると思うのですが、そんな人たちに向けて最後に何かアドバイスがあればお願いします。

米津:ひたすら好きなことをやるしかないですね。自分は昔から音楽という明確にやりたいことがあって、そして「自分は物凄い人間だ」と思って愚直にやってきたんですけど。

何をきっかけにやりたいことが見つかるかわからないですよね。日常を生きていく中で、ひょんなことから発見できるかもしれないし。ただ、ほんの些細なことでも「これは向いているかもしれないな」と思うことがあったら、100%の力でそれに向かってやっていくのが大事だと思います。

――本日はお忙しい中、本当にありがとうございました。

我々からの質問に対して、少し間を置いて発せられた返答は、これまでの歩みで得た経験からだろうか、静かな口調の中にもはっきりと“意志”が感じられるものだった。

「自分の才能を誰よりも自分が信じていた」

一切の嫌味も感じさせずにそう答えた彼が、これからの日本のミュージックシーンを牽引する存在になるのは間違いなさそうだ。

<取材・文:Spotlight編集部/カメラマン・Photographer:中野敬久>

出典 YouTube

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