アメリカ・ウィスコンシン州の田園風景を通るハイウエイ85号線。その路肩を、朝まだ明けやらぬ時間からコンバイン(収穫機)が大きな音を立てて通り過ぎていきます。

乗っているのは男性、隣の席に同乗者の姿はなく、その代わりにいつも一通の手紙が置いてあるのです。

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この男性、ドン・ジャクウィッシュさんは、この夏に世界中のバイラルメディアやニュースで話題になった、東京ドーム35個分の広大なひまわり畑の持ち主です。ハイウェイ85号線の両側7キロに渡って満開に咲き誇るひまわりを見に大勢の人々が訪れ、現地に行けない人々もネットで美しい景色を楽しみました。

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その話題をご存知ない方のために、まずそのひまわりの物語から始めましょう。

ドンさんの最愛の妻バベットさんは、去年の11月17日に亡くなりました

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9年間に及ぶガンとの闘いで、ついに力尽きたのです。

昔からひまわりが大好きだったバベットさんは、治療のさなかに「ひまわりを育ててその種を鳥の餌として売り、収益をガン治療のために寄付する」ことを思い立ったのです。

そしてドンさんとバベットさんの「ひまわり事業」が始まったのです。

2000年に結婚した2人は、双方とも再婚同士でした。

そして昨年11月、バベットさんは長くつらかったガンとの闘いを終えました。
その1ヶ月後、彼女の長年の夢だった「Babbette's Seeds of Hope(バベットの希望の種)」が設立されました。今、家族だけでなくまわり中から慕われていた彼女のひまわりのような笑顔が、会社のロゴになっています。

「妻は控えめな人だったから、自分の写真が付いているのが気に入るかどうかわからないけどね。でも本当に綺麗な人だったんだ。自分では知らなかっただろうけどね。表面も内側も美しい人だった」と、微笑みとともに語るドンさん。

本当はドンさん自身がバベットさんの笑顔といつも一緒にいたいに違いありません。

そして今年の6月、バベットさんを偲ぶよすがとして、85号線の両側にひまわりの種が蒔かれました。全ての土地がドンさんの所有ではなかったものの、近隣の農家が快諾してくれました。みなバベットさんが大好きだったのです。そして、一面のひまわり畑が実現したのでした。

地元のニュース局が取り上げた話題はたちまち全国ネットになり、また数々のSNSでシェアされていくことで、さながら映画「フィールド・オブ・ドリームス」のように人々を惹き付け始め、ハイウェイ85号線は車列で毎日渋滞するようになりました。

一家は数々のニュースメディアの取材を受けるようになりました。ピーク時には毎日大量のメールが届き、忙しさに紛れたこともあったのでしょう、バベットさんを亡くしてふさぎ込んでいたドンさんの気持ちも少し上を向いて来たように思えました。

そんなさなか、バベットさんの娘、ジェンさんは不安を覚えました。

「どうしよう。花は何時か枯れてしまう」

そして秋になりひまわりは結実し、茶色くうなだれ始めました。

枯れ乾いてなお立ち続けるひまわりと、コンバインの隣に空いた席とは、愛しい人はやっぱり戻って来ないのだということを、否応無く思い知らされることでした。

ちょうど1年前のこの時期に亡くなったバベットさんでした。
もし花が永遠に咲き続けて太陽のような光を与え続けてくれたなら、どんなに素晴らしいことか。でも家族はみな、いのちというもののはかなさを知っています。

「今年はね、特につらいよ」と種を収穫しながらドンさんはつぶやきます。「妻の手をもう1度握ることが出来たらどんなにいいかと、いつも思うんだ」

そしてドンさんはバベットさんの遺志にそって、今は収穫にいそしんでいます。

バベットさんの願いは、この種を売った利益をガン治療の研究に役立ててもらうことでした。この仕事を続けることが「母の思いを生かし続けること」と、娘さん達は考えています。

そしてドンさんにとってもこの仕事を続けることが癒しであり、今は存在する世界は違っても、愛する人と一緒に出来る共同作業なのです。

バベットさんの娘さんの1人、エリンさんが、ひまわり畑が多くの人々の心を打った理由について考えていることがあります。

「きっとこれが本当のラブ・ストーリーだからです。2人は本当に愛し合っていたし、母は家族を愛していました。ラブ・ストーリーを嫌いな人は、いないでしょう?」

この仕事を続けていく限り、バベットさんの笑顔はいつもドンさんとともにあります。ガン治療の苦痛で眠れない時、バベットさんはいつも家族にあてて手紙を書いていたので、ドンさんの手元にも、子供達のところにも彼女の書いたものがたくさん残っています。

この、家族みんなが遠くから集まって一緒に過ごす祝日である感謝祭が近づいていた日に、ドンさんはそのなかから感謝祭に一番ふさわしいと思う手紙を選んで隣の席においていました。今回の取材にあたり、少しだけ声を詰まらせながらそれを読んでくれています。

「もう1日だけ、家族や友人達と過ごすことが出来るようにと祈りましょう。明日また日の出が見られるという保証は無いのですから」

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