アメリカの小学校の朝は、クラスに入って先生が用意した「朝の学習」に取り組んだり、その日の予定を確認したりしているうちに朝礼に当たる「朝のアナウンスメント」が始まります。
まず「Pledge of Allegiance(合衆国国旗への忠誠の誓い)」を唱え、そのあとから学校全体の連絡事項やその日の誕生日の生徒の名前などが発表されます。

私も小学校でヘルプをしている時に「忠誠の誓い」が始まると、生徒達の手前、アメリカ国民ではないのに形だけですが右手を胸にあてて文言が終わるまで直立しています。

でもフロリダ州ジャクソンビルにある小学校のクリス・アルマー先生のクラスは違います。朝一番に「きみは面白いね!きみはよく分かってるね!毎日がんばっているね!面白いことしてみんなを笑わせてくれるね!」という感じで、まず先生が生徒全員のいいところを褒めることから始まります。それは時間にして毎朝10分ほど。

クリス先生はSpecial Education(支援学級)の担任です。

このクラスでは発語失行、自閉症、脳梁欠損症外傷性脳損傷反応性愛着障害など、さまざまな子供達が学んでいます。

クリス先生がこのクラスを受け持って3年になります。最初のうちは「楽しい月曜日(Funday Monday)」「お祝いする火曜日(Toast Tuesday)」など、曜日ごとに決めたテーマに沿って授業やセラピーを進めていたのですが、「お祝いする火曜日」で些細なことにも目を向けて褒めあったり感謝しあったりする日には子供達の反応が全体的に良いことが分かり、日課として取り入れることにしたそうです。

「どの子供達も形こそ違え一般の子供達からは隔離された環境で育って来たんです。今や彼らは全校生徒の前でダンスを披露したり、討論クラブに参加したりと、普通の子供達と同じような学校活動に臆せず参加しています」
こうすることで今まで区別され仲間外れのようにされることで受けた心理的ダメージを覆すことは、学校での勉強と同じぐらい大切なことだと、クリス先生は考えています。

出典 http://abcnews.go.com

その授業中の様子をまとめた短いビデオが評判に

クリス先生がFacebookで主催している「Special Books of Special Kids」というページでは、学校側と各生徒の保護者の承認を得て、子供達の様子をビデオを中心に紹介しています。膨大な量のショートビデオをさかのぼって最初から見て行くと、それぞれの子供達が心を開き、表情が明るくなって言葉数が増え、意思の疎通が図れるようになっていく過程がよく分かります。

その一環として、授業中の様子を短くまとめたビデオがアップロードされました。少し注釈をつけて紹介させていただきます。

出典 https://www.facebook.com

「私達は特別支援クラスです。私は友達みんなとここにいます」

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「私達は歌を歌います」

真ん中後方にいる女の子は発語失行で普段はなかなか喋れませんが、歌う時にはスラスラと言葉が出て来ることがあります。歌は言語療育には欠かせません。

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「私達はダンスをします」

障害によっては運動スキルに影響が及んでいることもあります。ダンスをすることで大きな動きをつかさどる筋肉(グロス・モーター・スキル)の発達を助けます。

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「私達は学びます」「ほら、みんなちゃんと聞いています」

支援学級の子供達はそれぞれのIEP(Individual Education Planの略=個別教育プラン)に基づいて補助を受けますが、共通しているのが集中力関係です。子供によっては高学年になっても「5分間静かに座って集中していられること」が当初の目標であることもあります。このビデオの中では先生が動き回ることで常に子供達の注意を引いている様子が見て取れます。

出典 https://www.facebook.com

「私達は小さなことでも感謝します」

たとえばそれまでずっと無表情で感情が読めなかった子供の口元が、ふと微笑みのような形でゆるむとき。なにか話しかけた時にこちらに顔を向けてくれて一瞬でも目が合ったとき。そんな小さなことが、たまらなく嬉しかったりするんです。

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「でも一番大切なこと、私達は愛します」
「僕もきみが大好き。本当に素晴らしい生徒だよ」

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そして先生の弾き語りに合わせて男子生徒が椅子でパーカッションを勤めているところで終わり。
なかには社会性がなかなか育たない子供もいるので、お互いに合わせて一緒に何かが出来るようになるというのは、素晴らしい成長なんです。

このビデオがメディアの目にとまり、結果として再生数10万回を超える大評判となりました。

下のリンクから動画ページに飛びますので、ぜひご覧になって下さい。中には言葉が不明瞭な子供もいますが、生き生きとした表情を見ていただけたらと思います。

このビデオがアップされた数日後、クリス先生はオープンレターをアップしました

「スポットライトがあたるべきは自分ではなく生徒達なので、こんな文章を書くのは心苦しいのですが、この機会を逃してはならないと思いました」と前置きした上で書かれているレターです。

7ヶ月ほど前、僕の心は限界に達していました。支援学級の教師として受け持っている生徒達の症状は様々ですが、1つだけ共通しているのは、彼らがとても純粋だということです。彼らは愛されるべき存在であり、それは普遍的なことです。にも関わらず世間の99%はそうは思っていません。ある保護者が語ってくれたことですが、最大の恐怖は自分達が死んだ後で子供が住む場所すら失い、路上をさまよっているのに電柱か何かのように無視されることなのだそうです。

僕は、どうにかしなければと思いました。保護者と生徒達全員を集め、クラスのブログを作ってお互いの情報をシェアしあうことを提案したのです。前代未聞なことは理解していましたし、自分の職も危うくなるかもしれない。でも気になりませんでした。この子供達のことはもっと知られるべき、愛されるべき、そして祝福されるべきなんです。世界はどんな子供にも権利があることを、しっかりと理解する必要があります。子供達から学べることはたくさんあるんです。

出典 https://www.facebook.com

そして「Special Books by Special Kids」が生まれました。

出典 http://abcnews.go.com

僕は僅かずつながらしていた貯金を止めました。Facebookに広告を出すのに600ドルかかりました。仕事の後は夜10時までビデオ作りとブログ書きに費やしました。このプロジェクトにかかり切りでした。4ヶ月を過ぎた頃、僕は泣きそうになりながら自分の彼女に「これが何かの役に立つんだろうか」と訴えていました。もし彼女が否定的だったら、そこで止めてしまうつもりでした。でも彼女は1年頑張ってみて、それで決めればいいと説得してくれたんです。

このビデオは一過性のものではありません。既に100を超えるビデオを作成しています。僕らが切望するのは、個々のスペシャルニーズの人々への愛と共感と受容を広めることです。それには「これが一番正しい道」というものはありません。

出典 https://www.facebook.com

スペシャルニーズという言葉は「普通ならば補助が要らない何かが特に必要な人」というような、「障害」よりももっと広い意味に使われます。日本語では「生き難さを抱えた人々」という訳をすることもあるようです。

このオープンレターはクリス先生が文章やビデオをどうぞシェアして下さい、ストーリーを広めて下さい、スペシャルニーズの人々も生きやすい世の中に変えていきたい、私達はみんな違うけれど、みんな一緒なのですから、という言葉で締めくくられています。

そして現時点では1万回以上シェアされ、1,500以上のコメントが付いて、その数は伸び続けています。コメントの半数以上がスペシャルニーズの我が子のことを綴ったもので、特に発達障害の場合は1人1人の症状がユニークでまわりに同じような子供がいないために孤立しがちだということで共通しています。図らずも人々に思いのたけを書く場を与える結果となったこと、素晴らしいですね。

この活動についてはFacebookの他に新たにホームページが開設されています。クリス先生と子供達がビーチを行く、いかにもフロリダ的な表紙絵が可愛いサイトですFacebookには登場しない子供達の写真も掲載されているので、きっと学外活動として保護者からの許可を得たのでしょう。今後、子供達の作品や経験談、保護者の声なども充実させていくようです。

我が子のことで恐縮ですが、私から見て子供が何も理解していないと思っていた頃、本人は何もかも見聞きし分かっていたのに表現することが出来なかっただけだというのを、何年も後になって普通の生活が出来るようになってから聞かされ、驚愕しました。そして子供が寝てしまってから、隠れて1人で泣きました。

子供達はきっと親が想像する以上にいろいろなことを吸収し理解出来ているんです。
そういう意味で、クリス先生の指導のもと、子供達がどう表現していくのか楽しみですし、素の姿を見ることでここまで出来るんだということが世間に知ってもらえるようになれば、よく目にする障害児へ向けた悲しいニュースも減って行くのではないでしょうか。

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