まもなく三十路を迎えようとする或る日、一枚の郵便が届きました。差出人は、すっかり連絡の途絶えていた高校生時代の友人です。

結婚式の案内状、でした。

そうか、もうそんな年齢なんだなあ、卒業してから10年以上経ったんだなあ、職も安定せず、殆ど異性と縁が無い日々を虚しく過ごしている私は、感慨深い気持ちに浸りました。久々にラインで近況を聞くと、本当に仲の良かった友人達にしか案内を送っていないので是非来て欲しい、旧交を温めたい、との返事。私は、僅かな給金から毎月少しずつ積み立てをして、式までに祝儀の金を作ろうと決めたのです。断腸の思いで。

イケてなかった高校生時代

一応、共学の進学校に通っていました。地元では軍隊、自衛隊予備校と呼ばれる厳しい学校でした。毎月一回ある服装検査は非常に旧時代的なものでした。

髪型は原則自由を謳っているのですが、横と後ろは2ミリか3ミリにバリカンで刈り上げ、前髪は眉毛にかからない程度、もみあげを伸ばすことなんて言語道断です。眉毛を剃ろうもんなら即座に生徒指導室行き決定です。自由は刈り上げを2ミリにするか3ミリにするかに限られていました。靴は真っ白な運動靴、靴下も白、学校側は腰パンブームを許さない姿勢を強く打ち出していた為、学生ズボンは極端に裾を短くするように指導されました。自転車を漕ぐたびに白いソックスのワンポイントマークまで覗いてしまい、或る意味、卑猥な感じもしていました。別の高校に通っていた弟は、きもい、と短く断じました。それから、冬でもマフラーを巻いてはいけない、なぞ良く意味の分からない規則も存在していました。

そんなんで、まあ、私たちはダサかったんです。

ヒエラルキー、あだ名

いくら校則が厳しくて、ダサい格好を強制されていたとはいえ、矢張り、モテる奴はモテるのです。奴等は放課後にズボンを履き替え腰パンスタイルを決め、帰りのバスの中でピアスを付けるんです。モテる者とモテない者、その差は歴然としていました。当然、クラスの中に階級制度、ヒエラルキーが存在していたんです。

イケてる、普通、ダサい、更にダサい、大体階層は四つに分類されており、イケてる、つまり顔が良く、ちょっと悪くてファッショナブル、女子と遊んでいるグループ、それ以下は、私たちの場合は結構流動的なものでした。私はダサいグループの主要構成員として三年間活動に邁進しておりました。

活動内容は、下ネタ、女子のあだ名つけ、に殆ど費やされていました。下ネタは大概誰かが尻の穴の事を英語で叫ぶと同時に終了していました。それ以上は、話が広がらないからです。

代表的なあだ名例を申し上げますと、アリクイ(見た目)、まな板に干しブドウ(胸を凝視した挙句の単なる予想)、ヤマンバ(少し色黒だっただけ)、レッドバッファロー(パンチラを目撃した友人が赤色だったと主張)、マナティー(実際、似ていた)等々です。

10年ぶりに、集合!

さて結婚式当日、久しぶりに顔を合わせた同級生たちは、当時イケてないグループに所属していたとは到底思えない姿でした。今風のスーツをばりっと着こなしています。進学校でしたので、地元を離れ東京、大阪と都会で大学生活を送り、そのまま就職を果たした彼らは人生の勝ち組であるようでした。医者に航空機パイロット、大手家電メーカー研究員、外資系企業の営業、有名建設会社社員、零細警備会社で年収200万円の私は「なんで、そんなにシャツ皺くちゃなん?」と心配される有様でした。彼等と唯一同じ土俵に立てるのは、みな一様に未だ独身である、その一点だけのようでした。

同級生の一人が声高に言いました。

「俺、今日の二次会マジで気合い入っとる!もうすぐ、こっちに帰ってくるけん、地元で彼女ば見つける」

聞けば私の与り知らぬ所で、ちょこちょこ同窓会も開催され、高校時代はあだ名を付けるだけで遠巻きに眺めるだけだった女子(アリクイ、レッドバッファロー)とも今では気さくに酒を飲みかわし楽しく語らい合っているそうでした。10年たっても異性交遊に失敗し続け、全然成長しない私と違って、彼らは人間として男として着実に大きく逞しくなっていました。

(…ぶはははは)

私は内心から沸き起こる高笑いを止めることが出来ません。高スペックな彼等と行動を共にすれば、今でもイケてない人生を過ごし続けている私も何かしら“おこぼれ”にありつけるに違いありません。

二次会開始

「おーい、こっちこっち」

少し遅れて会場のホテル最上階にあるバーに到着した私は、早速、感心しました。同級生たちが陣取ったテーブルの隣りにはなかなか美人揃いで華やかな女性グループが座っているではありませんか。さすがだな、都会で鍛えられたのか、素晴らしい嗅覚、狩人、見事なハンターだ、私は秘かに賛辞を送ったんです。その時までは、信じていました。そして私は馬鹿でした。

動かざること山の如し

新郎新婦が登場し、みなが拍手喝采します。それぞれのテーブルから男女が立ち上がり主役たる二人に群がります。ばしゃばしゃ記念写真を撮っては酒を注ぎ注がれ場が盛り上がります。同級生の一人が混雑に紛れ、カメラを片手にした女性に軽いジャブを放ちます。

「あっ、よかったら写真、撮りましょうか?」

声を掛けられた女性は、びくっと震えると、黙って首を横に振りました。怪訝な表情で警戒している様子がありありと浮かんでいました。

「チッ。かてえな」

同級生は少なからずショックを受けたようです。テーブルに引き返し、ぐっと酒を呷りました。おっかしいなあー、と独り言を漏らしています。

それから、ビビッてしまったのでしょうか。誰も行動を起こしません。只管に飯を喰らい酒を飲んでいます。業を煮やした私が言い放ちます。誰か行けよ、と。

「ほら、あそこでパスタとってる子、かわいいやん。ちょっと一緒に行ってこようぜ」

「馬鹿。たしかにあの子はいいけど、隣りば見てみろ。虎刈りの女がおるやん。アイツがノリノリでついて来たらお前どうするつもりなん?」

「まだ早い」「時期ではない」「もう少し酒を飲もう、話はそれからだ」言い訳がましいネガティブな言辞を弄すばかりで誰もテーブルからちっとも動こうとせんのです。


たそがれ清兵衛

さっきまでテーブルにいた同級生の姿がありません。遂に女性に声を掛けに行ったのかと辺りを見渡すと、何故か隅の方で一人で柱に凭れ掛かって、ワイングラスを傾けています。近づいて尋ねます。

「お前、何してんの」

「いや、一人でたそがれとったら、イイ女が“アンタ一緒に飲まない”って誘って来るかなと思って」

「で?」

「誰も来ねえ」

一緒にテーブルに戻りました。同級生は発想が童貞のままでした。

じゃあ、俺が行く!どうぞ、どうぞ

「わかった。もう俺が行ってくる!」

私が大袈裟に手を上げて叫びます。お決まりの展開です。

「いや、なら俺が行く」「いや俺が」「なら俺も」

「どうぞ、どうぞ」

ダチョウ倶楽部の真似になり、すっかり場はぐだぐだです。素人のふざけあい。イケてないグループの悪ノリ。でもこのノリが懐かしくて私は少し楽しかったんです。いや、かなり。

終焉

「あのおー。良かったら、あっちで僕たちと飲みませんか?」

我々の横にいた女性グループに声を掛けたのは、果たして、新郎の中学時代の友人と思われる男性グループでした。断られたら面白いのに、と期待しましたが、美人揃いの女性グループはあっさり移動を始めました。嬌声が背中に聴こえました。

「…オイ、盗られたぜ」

半ば無視され、無言で同級生たちは酒を呷ります。披露宴から飲み過ぎたのでしょう。テーブルに突っ伏して動かない者も若干名います。闘いはあっさり終了しました。

帰りの地下鉄にて

繁華街、中洲に流れてガールズバーで鬱憤を晴らす、臥薪嘗胆、という同級生達と別れて私は二人で帰路につきました。授業中突然、アナル、と叫ぶ面白い男でした。彼は思い返せば今夜は幾分冷ややかに我々の行動を見守っていました。

「実は俺も来年、結婚するけん」

静かな口調で彼は言いました。おめでとう、と返しながら、心中また二次会の事を考える私でした。

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男は久留米という砂漠の中の一粒の砂であり、クルマ、金、女に縁がないライター志望の孤独で吝嗇な三十路だった…http://ameblo.jp/kt660cc http://tabelog.com/rvwr/002224433/

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