昨今はインターネットの爆発的な普及で、アダルト動画は無料で見放題という何とも素晴らしい時代なのですが、私の学生時代はそうではなく、男性として抗えない本能的な欲求、寄せては返す波の様に果てない生理的な希求、遣る瀬無い強烈な衝動を鎮火せしめるために足繁く「レンタルビデオ」店に通う必要がありました。切実でした。

暖簾の向う側は、18歳以上しか立ち入れない聖域でした。そこでは様々な人間ドラマが生まれていたのです。

1.「これ、お母さんだ!」

その日、私はアルバイトを終えると、いつもの様に隣りにあったレンタルビデオ店へ向かいました。深夜0時過ぎです。空いている店内、何のためらいもなく暖簾をくぐった私は真剣な眼差しで、物色を始めました。明日への活力を得る為です。どのビデオがより大きな活力になるかを、パッケージと裏面の解説を熟読しながら、選び抜いていました。すると、厳正なる審査を遮る大きな声が響きました。闖入者が現れたのです。

「うわあー!なんここ?おっぱいがいっぱい」

声の主は推定4~5歳の男児でした。興奮した様子で暖簾の向う側を自由気儘に駈けずり回っております。

「なーん、このおっぱい。変なおっぱい」

扇情的なパッケージを見ながら率直過ぎる感想を大声で述べています。こっちは真剣勝負なんだ、子供が入ってくる場所じゃないぞ、こんな時間に親は何をやっておるのだ、私は憤りを覚えていました。社会的な正義を胸の内で訴えていました。しかし、次の一言で私は男児にすっかり魅了されてしまうのです。

「これ、お母さんだ!」

思わずマジか!と喰い付いてしまいました。男児の指差すパッケージをしげしげと凝視してしまいました。人妻コーナーに陳列してある一本でした。ほう、なかなか、と感心していると、また一人暖簾をくぐる者が現れました。息を切らせ慌てていました。男児の父親でありました。

「コラ!ここは入ったらいかん!で、それ、お母さんじゃ無い!」

私はほっとして凄くハートフルな心持ちになりました。その日は活力を三本レンタルした記憶があります。

2.店長の性癖

そのレンタルビデオ店に隣接する私のアルバイト先は、安いことが売りのラーメン屋でした。初老の雇われ店長は小柄でにこにこと愛嬌があり加藤茶にそっくりでした。真面目で黙々と仕事に打ち込む職人肌の人でした。小言を言われると、陰で同僚たちは「加トちゃんペ」と軽く揶揄しながら働いていました。

たしか土曜日の晩だったと思います。彼女なんていない私は、仕事終わりに寂しさを紛らわせる為に、レンタルビデオ店に入り暖簾の向う側へ赴きました。

あっ、と声が漏れそうになりました。先程まで一緒だった店長がいました。腕組みをしたまま、一点を睨んでいます。私には全く気付いていないようです。視線の先に何があるのかと私は探りました。

「巨乳コーナー」でした。

私は別に知りたくもない店長の性的な趣向を知ってしまいました。このおっさんは巨乳が好きなのか、と仕事中に漠然と思うようになりました。

暖簾の向こう側で知り合いに出くわすのは気まずいものです。親しい間柄ならまだしも、中途半端に仲が良い友達なら「よ、よお」と非常にぎこちない空気に陥ってしまいます。その昔、篠原涼子は愛しさと切なさと心強さと、そう歌いましたが、暖簾の向こう側で、ばったり旧友に遭遇した場合、懐かしさと気まずさと後ろめたさと、私はそんな歌詞を思い浮かべてしまうのです。

3.右腕を掲げる

世間では選挙権の付与が18歳に引き下げられる、かなんかで騒がしいのですが、暖簾の向う側の制限年齢は前から18歳以上でありました。微妙です。同じ高校三年生でも誕生日の日取り次第で、堂々と入れるか、こそこそ隠れて入らねばならないか、クラスメイトは二手に分断されてしまうのです。

あれは高校三年生の春休みでした。既に18歳を迎えていた私は白昼堂々、レンタルビデオ店でアダルトビデオを借りました。以前のようにゲゲゲの鬼太郎を上下に挟んで誤魔化す必要もありません。そのままレジに持っていきます。うわっ、私は絶句しました。

レジに同級生男子がいました。お調子者でやっかいな存在です。春休みからバイトを始めた模様です。私は人差し指を唇に当てて、誰にも言うなよ、と手の動きで懇願しました。スムーズな貸し出し手続きに専念して呉れと願いました。次の瞬間、同級生の手が懐に入ります。掴まれた感触がありました。ふわっと右腕が天高く持ち上がりました。

「はーい。コイツ高校生!」

店内に響き渡る大声で叫ばれました。試合に勝利した格闘家とレフリーみたいな格好になっていました。18やけん関係なかろうもん、と抗議するも同級生はなかなか手を離しません。ビデオを借りに来た有象無象のお客さんたちからジロジロ不躾な眼差しに晒されました。生き地獄でした。

まとめ

無料動画は便利で非常に有難いのですが、その分、面白い出来事に遭遇する機会が減ってしまったようにも感じます。或るお笑い芸人がアダルト動画を観すぎてパソコンがウイルスに感染してしまった、パソコンが性病に罹った、というネタは非常に面白かったのですが。

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男は久留米という砂漠の中の一粒の砂であり、クルマ、金、女に縁がないライター志望の孤独で吝嗇な三十路だった…http://ameblo.jp/kt660cc http://tabelog.com/rvwr/002224433/

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