今回、SNSなどで炎上状態となっている”資生堂ショック”。簡単に言えば「育児で時短勤務中の社員にも月2日の土日祝勤務と月10日の遅番勤を捉し、フルタイムと同じノルマを課す」というもの。

元々、育児休暇や短時間勤務などをいち早く導入し、女性が働きやすい職場という印象が強い資生堂が、この方針を打ち出した事で、時代の流れに逆行しているといった批判が殺到しています。

しかし、実際にはどうなのでしょう?資生堂という会社が行ってきた子育て支援の拡充について、まず説明したいと思います。

1990年・育児休業を3年に

今から25年前、男女雇用均等法がようやく社会の意識の中に定着し始めたばかりの頃です。それでも「結婚退職」が当たり前だった時代。その時代にすでに「育児休暇」を取り入れています。

1991年・時短勤務(育児時間)導入

結婚した女性が働く事が珍しかった時代ですが、翌年には時短勤務を導入。

1993年・介護休業、介護時短導入

子育てだけでなく、社員の働きやすい環境を整える制度を拡充してゆきます。介護のために1人の家族につき原則として1回につき1年以内、通算3年以内休業できる「介護休業」制度を、介護のために1日2時間以内で勤務時間を短縮することができる「介護時間」制度を導入しています。これが22年前の事です。

1998年・カフェテリア制度育児補助

子どもを保育園などに預け、保育料補助を希望する社員に対する補助が導入されました。

2003年・社内保育所カンガルームを設置

本社営業日の朝8時から夜7時、そして延長保育は夜8時まで行っていて残業にも対応できる様になっています。カンガルームには、保育士、看護師、管理栄養士が常勤しています。

2005年・子供介護休暇導入・短期の育児休業制度

小学校入学前の子どもの病気・ケガによる「子ども介護休暇」を有給で年間5日取れるように設定、2008年には半日単位で取得できるように改訂しました。また、短期の育児休業制度を設定する事で、男性社員でも育児休業制度を取りやすくなりました。

2007年・カンガルースタッフ体制の導入

現場にいる事を求められる美容部員の短時間勤務者の為に、夕方以降に業務に入るカンガルースタッフという派遣社員制度を導入。現在では1600名ほどが在籍しています。

2008年・時短を小学校3年(満9歳)まで延長

2010年・男性社員の育児休暇を更に改善

出産後8週間以内の父親の育児休業取得の促進、男性社員が配偶者の出産後8週間以内に育児休業を取得した場合には、育児休業を再度取得できる様にしました。

2014年・カフェテリア制度 子ども教育補助

子どもの塾、通信学習、習い事など教育に支出した費用の補助制度もできました。

その他にも、配偶者の転勤に伴う異動考慮などの配慮も

転居を伴う異動の対象から育児時間・介護時間取得中の社員を外す、育児期(3年生以下)の子どもがいる社員の配偶者に転勤が生じた場合には、配偶者の勤務地へ同行できるなどの配慮も行っています。また、配偶者が海外転勤になった場合に同行できるように、3年以内の休業が認められています。

制度が充実しているがゆえの問題が浮上

資生堂で働く従業員の約83%は女性です。そして国内の資生堂グループで働く従業員23870人のうち、2014年の育休取得者は5.9%の1421人、時短勤務者は7.65%にあたる1882人。資生堂が「制度を利用してもらいたい」という働きかけを社員にしてきた成果といえます。また、男性社員の育児休暇所得者、時短勤務者も珍しくありません。

女性の声に耳を傾けて子育て支援策を次々と拡充。出産退社を減らす当初の目的を果たす一方で新たな課題が浮上した。

出典 http://www.nikkei.com

2014年度のデータを見ると、育休・時短だけでも23870人中、約13%にあたる3303人が制度を利用している事になります。この制度を利用しやすい雰囲気が、逆に問題を生み出します。

短時間勤務制度などをフル活用すれば約10年フルタイム勤務をしなくて済む。ここまで極端ではないにしろ、職場への十分な配慮を欠く制度利用が見られるようになった。

そこで会社は子育て支援の目的を改めて検討。「基本は自助努力。制度は自力で解決できないときに頼るもの」と確認した。

出典 http://www.nikkei.com

これから先、同じ問題が起きてくる可能性も

つまり、制度の意図を理解して利用している人だけでなく、制度を自分の都合の良いように解釈したり、その分を補っている人達への配慮が無い利用の仕方をしている人なども出てきたという事です。炎上のきっかけの一つである「育休を甘え」という発言は、このあたりの問題に対して発せられているのではないかと思います。

 「忙しい夕方、同僚に感謝の言葉もなく帰るなど育児中の優遇が既得権益化し、摩擦が生まれた」。BC出身の執行役員常務、関根近子(61)は改革の理由を話す。

出典 http://www.nikkei.com

いつしかBCの時短勤務者は1200人に増え、「このままでは回らない」と通常勤務の社員から悲鳴が上がり始めた。充実したはずの制度が逆に士気後退につながる――。その危機感が資生堂を「優しさの次」へと向かわせた。

出典 http://www.nikkei.com

業績が悪化して、フルタイムで働く社員達の勤務体制にも変化が起きていく中、、正当な取得とは思えない利用が行われたら・・・もしくは「正当な利用だから」と他の社員への配慮が全く感じられない人がいたら・・・一緒に働く社員達の気持ちはどうでしょうか?そこで「時短・育休中の社員の仕事への気持ちに、改革を」という話になるのです。

また、業績が悪化した時に社内で改革を進めるのはごく自然の流れですが、それをもしも時短・育休の人のみ免除してしまった場合、フルタイム勤務の人は納得するでしょうか?


そう考えると、今の段階で「育児制度の導入・拡充」を考えている各企業にも、将来的には同じ問題が出てくる可能性もあるのです。

二者択一ではなく、両立も目指す方向へ

厚労省の平成23年雇用動向調査の概況によれば、女性一般労働者の結婚、出産・育児の理由による離職率は25~29歳で4.5%、30~34歳で3.2%に達している。

出典 http://toyokeizai.net

資生堂の出産・育児理由での離職者は2014年で1%以下となっています。また育休後の復職率は95%以上です。厚生省の数字と比べてみても、資生堂が女性にとって働きやすい職場である事がわかります。

出典 http://www.hoiku-partners.com

※汐留にある社内保育所カンガルールーム(写真)

コスメティクスマーケティング部の佐藤由香さん(34)は、事業所内保育施設「カンガルーム汐留」に1歳の息子を預けて働く。育休から昨年10月に復帰。だが地元の認可保育園は定員がいっぱいで入園できなかった。「カンガルームがなかったら、復帰できなかった」短時間勤務制度も使いつつ、夫と子育てを分担して週1日は遅くまで働く。佐藤さんは「外部との打ち合わせや、たまった仕事の処理に費やす。会社に助けてもらっている分、成果もしっかり残したい」と話す。

出典 http://www.nikkei.com

ここから今回の改革が始まります

資生堂 人事部 ビジネスパートナー室 本多由紀室長「育児期の社員は常に支えられる側で、本人たちのキャリアアップも図れない。なんとか会社を支える側に回ってもらいたいという強い思いがあった。働くことに対する意識、ここに対してメスを入れていこう。」

出典 http://www.nhk.or.jp

そこで資生堂が打ち出したのが、今回の改革案です。時短中や、育児休暇中だとしても、やる気のある人には、そのキャリアを継続しステップアップできる道を作って行こうという考えです。

現在の社会では、育児を優先してキャリアを諦めるか、もしくはキャリアを優先して子供なしを選択するか、という選択をせまられる場面が多いのが現状です。

しかし、働く女性たちの中には「育児を犠牲にしなくてはキャリアアップを望めないのは辛い」と考えている人も多くいるのではないでしょうか。今回の資生堂の方針は、育児をしながらキャリアアップする方法はこれだという選択肢の一つを提示したという事でしょう。

国際事業企画部の国岡奈央子さんは6歳と3歳の子どもを育てながら働く。5年間子育てに専念し、13年11月に復帰した。「ママ社員向けの軽い仕事を振られるのでは」。そんな予想に反して担当業務は出産前と変わらず米国の子会社の経営管理。海外出張もこなす。現在も短時間勤務を続ける。限られた時間で成果を出すのは大変。「でもつらさよりも仕事のやりがいが勝っている」と話す。

出典 http://www.nikkei.com

改革から1年余り。子供を持ち都内の化粧品店で働く広嶋由紀子さんは、土日や遅番にも意識的に入る。その方が周囲の協力が得やすいからだ。実家の協力を得て遅番に入るようになった百崎も「販売増に貢献できる」と前向きだ。

もちろん、すべての社員が納得したわけではない。「リストラ宣告だとぼうぜんとした」と会社を去ったBCもいる。ただ、関根さんは「育児中の人にはプロ意識が、他の社員は配慮や協力の意識が増した」と分析する。

出典 http://www.nikkei.com

とはいえ、家族が協力的な家庭ばかりでは無いでしょう。その為、資生堂は協力してくれる家族がいない人への「ベビーシッター代の補助」なども行っています。これも国内の会社としてはかなり手厚い待遇に入るのではないでしょうか。

「まずは一人前の仕事を振る。無理ならそのとき遠慮なく言ってもらい、軽減策を考える。『子育て中だから』と配慮しすぎると女性のやる気をむしろそぐ」と説明する。

出典 http://www.nikkei.com

「管理職試験を受けてほしい」。14年秋、産休中だった資生堂グローバル事業本部の長谷直子さんは上司の言葉に驚いた。長男はまだ生後1カ月。悩んだが「子供を産んでもキャリアに傷は付かないと後輩に示せたら」と勉強を開始。今春管理職として復帰した。

出典 http://www.nikkei.com

資生堂ショックの影響

仕事に対して「自分自身の生きがい」や「キャリアアップ」を求めている人にとっては、選択肢が増えるだけでなく、時短勤務をしている事による「本来は持たなくて良い罪悪感」を持つ事もなくなるでしょう。

しかし、仕事にそこまでは求めていない人や、次の就職先が見つからない(または条件が落ちる)のが不安で辞めたく無いなどの理由で仕事を続けている人にとっては、この改革によって得る良い面は何もないかもしれません。

つまり仕事に対するスタンスによって、この改革から受ける印象は全く別のものになるのではないでしょうか。

とはいえ、これは育児をしているかどうか、男性か女性かはという問題ではなく、キャリアアップを求めていない社員、仕事への熱意の無い社員に対して、会社はそこまで制度を充実させるでしょうか?

今回の資生堂の改革では、企業としてやれる事はここまでやったけれど、それに対してどう答えてくれるのか、が問われているのではないでしょうか?

そして、一歩先を行く資生堂からこの問題が提議された事で、後追いの形になっている各企業にも、今後同じ様な問題が起きる可能性がある事、それに対してのベストの方法を企業も、国も、模索してゆかなくてはならないと感じます。

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