素敵な出会いを求めて、週末の度に「婚活パーティー」に出掛けるも、結果は惨憺たる有様…。毎回四千円程度の参加費を無駄にしてきた、寂れた地方都市の片隅で暮らす三十路独身男性たる私なのですが、とある筋から(地元フリーペーパー)有益な情報を仕入れました。

「相席バー」なる店がオープンしたらしいのです。一体どんな店なのでしょうか。そこに行けば、素敵な異性と邂逅して明るい未来を築く、私の夢も叶うのでありましょうか。

ここに四日連続で「相席バー」に突撃した模様を報告させていただきます。

そもそも「相席バー」って?

私が行った「相席バー」の雰囲気、それとシステムをざっくり説明します。

そこは婚活パーティー会場の二階にあり、見た目は普通のバーと何ら変わりはありません。階段を上がり、扉を開けると、正面に木のカウンターが伸び、棚に酒瓶が並んでいます。白いシャツに黒ベストを着たバーテンが二人います。どちらもまだ若く、男の目から見ても、かなりイケメンの部類に入るでしょう。薄暗い店内に結構な音量で欧米風なBGMが流され、天井に吊るされたシーリングファンがくるくる回転し続けています。白い壁に大きなモニターが取り付けられ、どこかのリゾート地の海が映し出されています。薄いレースカーテンで仕切られたソファ席がずらっと設けられています。クッション完備でゆったり寛げそうです。

システムは、男性は相席していない時間は10分間200円で飲み放題相席すると10分間500円という料金体系です。制限時間は無く、会計を告げないと自動的に延長されます。混雑時には20分間で相席をローテーション、次々に席を交代していくそうです。

それで女性は無料で飲み放題、相席しようとしまいと、ずっと無料です。

このシステムなら、女性が多いでしょうね!ぐふふ。

一日目「ウイスキーの夜」

さて、初日は大型連休の最終日でした。連休中も仕事漬けだったサービス業の女性が一仕事終えて、飲みに来ることでしょう。私は彼女たちの愚痴を聞きましょう。って、あれ。

(んっ、男しかいない!)

緊張しながら店の扉を開けましたが、店に女性の姿はありません。カウンターの端っこに少々頭髪の薄いサラリーマン風男性が一人でアイパッドを弄りながらビールを飲んでいます。ソファ席にはツーブロックで短パン、フレームの太い眼鏡をかけた三十代オシャレ頑張っています的な二人連れが煙草をふかし、談笑しています。

「お客様、三番目ということで、お待ちください」

女性客は大抵二人か三人で来店するようです。三組目の女性客が来た時点で私の相席がスタートする予定だそうです。タッチパネル式の端末で「ウイスキー水割り」を注文しました。殆ど酒が飲めない体質なのですが無理して格好つけました。ビール、ワイン、ウーロン茶等のベーシックな飲み物は無料ですが、ちょいと手の込んだカクテルや高級な酒は別途料金がかかります。

無料ピーナッツとカール的な形状のスナックをぼりぼり齧り、ウイスキーを飲みました。エビ味のカールが非常に美味かったです。煙草を二本吸いました。

結局、女性は来ませんでした。ウイスキーを二杯飲んだら、頭がグラグラする、私はこの夜、己の酒量を知りました。

二日目「相席からの沈黙」

矢張り、連休の最終日は翌日の仕事に備えて、女性は自宅で休息を取るのでしょう。私の読みは些か甘かったのです。自分に都合の良すぎる論を展開していました。

二日目の夜、私は相席を果たすのです。

カウンターに座り、昨日と同じようにウイスキーを嗜んでいると、バーテンが耳打ちしてきました。

「お客様、もしよかったら隣りの男性の方と二人で?あのソファ席の女性客お二人と相席して頂けますか」

私の隣りには人の良さそうなサラリーマン風男性がいました。どちらも一人で来店している男性客、それを合わせて、四人で相席して下さい、との申し出でした。内心、知らない男と一緒に話すのは嫌だなあ、気まずいなあ、と思いつつも「あっ。僕は全然大丈夫です。あっ。そちらさんが良ければ。あっ」いかにもいい人そうな男性客の言葉を受ければ断ることは出来ませんでした。バーテンが女性客二人を私とサラリーマンの間に座らせました。その時、唐突に私は気付いたのです。

(おれ、人見知りだ!)

サラリーマン、私の分まで頑張ってください、余裕があれば司会として話を振ってくれませんか、私は恥ずかしさで俯き、カールをつまみにウイスキーを呷り、只管煙草をふかしていました。一切横を向かず、あらぬ方向に視線を据え、クールなタフ・ガイの演出に努めました。

「すいませーん。席移動させてくださーい」

かなり苛立った口調で女性客はバーテンに伝えました。十分も経っていませんでした。サラリーマンと女性客二人はソファ席へ移動しました。

カウンターでちびちびウイスキーを舐めながら、果たして何をやっているんだろう、と私の頬に一筋、熱い涙が伝いました。バーテンは、コイツ一体なんなんだろうと困惑していたことでしょう。

三日目「女性は無料」

二日目の時点で普通は行くことを止めると思いますが、私はまだ可能性を信じていました。奇跡の出会いがあるかも知れない…と。

「ウイスキー水割り、ですよね?」

バーテンは私の顔を覚えたようです。今夜はカルアミルクにしようかな、と思っていましたが、私はクールに顔だけで頷きました。すると、階段をどたどた上がる音が聞こえてきます。嬌声も混じっています。

「ねーねー、無料やろ?だけん、無料やろ?タダっしょ!タダっしょ!」

完全に酔っぱらった女性四人組が来店しました。脱色した髪が目立ちます。バーテンにしつこく料金の確認をしています。絡んでいます。はーい、わたしたち酔ってマース、と自覚症状もある様子です。バーテンが顔を寄せて囁きました。

「あの…相席を」

「いや、これ飲んだら帰ります!」私は喰い気味に返答しました。私の戦闘能力を知っているだろう、どう考えても無理だろう、私は退却を決めました。私より後に入店した男性二人のソファ席に酔客女性軍団は案内されていきました。

「いえーい。かんぱーい。おにーさんたち仕事なんなん?営業?わたしたちも営業~」

営業職とは非常なストレスがかかるのだな、と思いました。ゆっくりしていって下さい、とバーテンは私に言いました。奇妙な連帯感が生まれていました。

四日目「待ちくたびれて」

この頃になると、私は出会いを求めるよりも、安い値段でウイスキーを二杯飲むことに喜びを見出すようになっていました。

四日目の夜、いつもと同じように扉を開けると、カウンターに女性が一人で腰かけていました。バーテン二人と和やかに語らっている様子です。運命なのでしょうか。ついに出会いが訪れたのでしょうか。私に気が付いた女性がゆっくり振り向きます。

(…げえっ)

う、うーん。正直ルックス的にお世辞にも美人とは呼べない感じで、結構年齢もいってらっしゃるようで、大分ぽっちゃりされてて、眼鏡も全然おしゃれでは無く牛乳瓶の底みたいで、私はやべえな、どうしようかな、と立ち尽くし逡巡していました。

「では、早速相席をお願いします」

バーテンに、すいません、ちょっとトイレ借ります、と言い残し早歩きで奥のトイレに駆け込みました。そして、逃げよう、と決意を固めました。トイレを出ると、カウンターの女性から「わたし、いまから話しかけられるんだわ」そわそわしている雰囲気が漂っています。運よくバーテン二人は何かの作業に没頭し背中を向けています。

(いまだ!)

私は足音を立てない様に、しかしなるべく素早い足さばきで階段を下りました。刺客が追い駆けてこないか不安で心臓がばくばくしました。無論、トイレを借りただけなので無銭飲食など、犯罪行為は無い筈です。

でも…。

もう「相席バー」には行けない、そんな私の報告は以上であります。

この記事を書いたユーザー

久留米の爪切り このユーザーの他の記事を見る

男は久留米という砂漠の中の一粒の砂であり、クルマ、金、女に縁がないライター志望の孤独で吝嗇な三十路だった…http://ameblo.jp/kt660cc http://tabelog.com/rvwr/002224433/

権利侵害申告はこちら

Spotlightのライターなら1記事最大3000円もらえる!日本最大級メディアでライターデビューのチャンス