衣食住の「住」に関わる仕事をしていたとき…は、時々…、家の扉の向こう側に入れることがありました。

幼児虐待…、

なにも弱い立場の子どもを虐待するのは、両親だけということはないのです。

もっともらしいことを声高らかに外(世間)に向けて言いなら、その実、内(家の中)では平気で幼い孫を虐待する…、という人間社会の呼び名を借りた。

恐ろしいが、世間には潜んでいるのです。

「元夫の再婚…、新しい赤ちゃん=新しい跡取り」

ある日の朝、電話が鳴りました。

受話器を取った関西在住の英子さん(仮名)の耳に飛び込んで来たのは…。

「ママ、今からママのところへ行ってもいい?」

それは、この10年間、〝会いたい〟〝声が聞きたい〟と、ずっと思い続け、訴え続けてきた。
乳幼児の頃に離婚した夫(関東在住)の元に残してきた、今年、小学校4年生になる息子さんの声でした。

「弘樹(仮名)?弘樹なの?」

「うん…」と、息子さんは消え入りそうな声で返事をしたそうです。

「うん、いいよ。いつだっていいよ。ママ、いつだって弘樹に会いたいもん。今どこ?」と、英子さんは息子さんに優しく聞きました。

「東京駅」

「そう、パパはいるの?」

「うん、横にいる」

「そう、ちょっとパパに変わってくれる」

「うん」といって息子さんは、元夫に電話を替わってくれました。

「どういうこと?今まで一度も会わせてくれなかったのに…」と、英子さんは電話に出た元夫に対しなじるように言いました。

「俺、再婚したんだ。それで、先月子どもが生まれた。新しい嫁さんが、嫌がるんだ。自分の子どもでもない子を、このままずっと育てるなんて出来ない。いやだってな」

「なに、勝手なこと言ってるのよ!あなたも、あなたのお義母さんも、弘樹は跡取りの男の子、大事な孫だから私には渡さないって言ってたじゃないの!」

怒りがこみ上げてきた英子さんは、思わずムダなことだとは思っていましたが、電話に向かって怒鳴っていました。

「今度生まれたのは男の子なんだよ。新しい跡取りが出来たんだよ。だから、お袋も、弘樹のことはもういらないっていてんだ。おまえ、前から何度も弘樹のことくれっていってたじゃないか。丁度いいだろう?文句いうことなんかあるのかよ。これから新幹線に乗せるからな。昼前にはそっちに着くだろうよ」

「ちょっと待ってよ!ひとりで乗せる気?」

「俺、これから仕事なんだよ。遅刻するから切るぞ、8時○分発のひかり○号の×号車△番だからな!ちゃんと迎えに来てくれよ」

「ちょ…」

英子さんが話すより先に電話は切れました。

「悔しさをバネに中古マンションの購入」

いきなり、元夫に電話を切られた英子さんの気はおさまりません。

離婚をするとき、まだ乳幼児だった弘樹くんを引き取りたいと英子さんは言いました。

このとき元夫は、初め、自分が乳幼児の弘樹くんを育てられないといい、弘樹くんは英子さんが引き取って育てればいいと投げやりにいっていました。

それを聞いた時も、〝この人は、やはり自分だけが可愛いのだ。弘樹は自分の子どもなのに、愛情の欠片もない〟と思ったそうですが…。

自分になんの感心も示さない、姑のいうことを聞くロボットのような夫と離婚できて、弘樹くんと二人で暮らせるなら、もうなにもいうまいと英子さんは決めたのです。

が…、

ここでまた、

元夫の母親、英子さんからすると義理の母親が今度も横から、「弘樹は我が家の大事な跡取りの男の子、あなたには渡しません」と口をはさんできました。

そして、

「あなたが息子と離婚したいというなら、弘樹を置いて出て行きなさい」と一歩も譲らず。おまけに舅も元夫も、この義理の母、姑の言いなりになり。

あげく…、弁護士を立てられ、金銭的に余裕のない英子さんは、泣く泣く弘樹くんを置いて家を出ることしか出来ませんでした。

それから、弘樹くんは姑に育てられることになったのです。

そして、その後、何度お願いをしても「あなたに、弘樹を会わせる気はありません!」と姑に言われ、英子さんはそれから一度も弘樹くんに会わせては貰えませんでした。

だから、英子さんは決心したのです。

〝働いて、働いて…、お金を貯めて弘樹を迎えに行く〟と決心したのです。

そして英子さんは、昼間は事務員として働き、夜はスナックで働きました。

それこそ、寝る間を惜しんで死ぬ気になって働いたのです。

夜の街で、どんなに男性から誘惑されても…「この仕事をしているのは、一日でも早く弘樹と暮らすため、甘い言葉になんか騙されない。男なんてみんな一緒よ、身体目当てに決まっている。でも、私は、騙されたりなんかしない。一時の遊び相手になんかにならないわ」と、笑顔の下には強い決意がありました。

ですから、夜の仕事の為に必要なもの以外の贅沢は一切しませんでした。

その甲斐あって英子さんは、弘樹くんが小学校に上がる頃、小さいけれども中古のマンションを購入することが出来たのです。

ここまで英子さんが頑張れたのは、元夫が「おまえがマンションの一つでも買えば、弘樹を引き取れるようにおふくろに話してやるよ。それだけの経済力があれば、もう、おふくろも文句いえないだろ?俺に任せておけよ。だから、な、今は我慢してくれよ」と約束してくれたからでした。

でも、その約束は果たされませんでした。

「俺は、どっちでもいいんだ。弘樹が、いようがいまいがな。けど、おふくらが煩いんだよ!弘樹は、跡取りの男の子だがら、おまえには渡せないってな」と、受話器の向こうから投げやりな元夫の怒鳴り声が聞こえました。

「そんな、あなた!約束したじゃないの、私がマンションを買えば義母さんに話してくれって!弘樹と暮らせるようにしてやるって!いったじゃない」と、英子さんも負けずに怒鳴り返します。

「あぁ、言ったさ。言ったけど、ダメなもんはダメなんだよ。おふくろは、おまえには弘樹を渡さない。おまえにだけには渡さないって言ってんだよ、おまえもいい加減に諦めろよ!じゃなぁ」と、電話は一方的に切れました。

そう、元夫の態度は考えられないくらい冷たいものでした。

〝ここまで…、今日まで、必死で頑張ってきたのはなんだったの…〟と英子さんはこのとき、力が抜けてその場に座り込んでしまったそうです

英子さんの元夫は、いつでも、何処でも、誰にでも、その場、その場のいい顔をして自分が悪く思われないように自分に都合の良い話をしますが、一度としてそれが現実に実行されることはなかったのです。


「姑という鬼を見た…英子さん」

英子さんは怒りがおさまりませんでしたが、弘樹くんを迎えに急いで駅に向かいました。

ホームで待つ英子さんの胸は、ドキドキしていました。

やがて指定された新幹線が停車し、ドアが開きます。中から人がドッと出てきました。

殆どがサラリーマンという大人の中に、小さな男の子がランドセルを背負い、片手には小さな布の手提げカバンを持って、ひとり心細げに降りてきました。

「弘樹?」と声をかけながら、別れてから初めて見る弘樹くんに、英子さんは涙がでそうになるのを必死に堪えていたそうです。

そして…、

「うん、ママ?」と弘樹くんが、小さな声で不安そうに聞いてきたそうです。

このとき英子さんが感じたのは、弘樹くんが小学校4年生にしては、えらく小さいという…、なにか得体の知れない違和感だったそうです。

「荷物、それだけ?」

「うん、これだけ」

「そう」といいながら…、何かがおかしい…と、英子さんは直感的に思ったそうです。

が、弘樹くんを不安にさせないようにと思い、その場ではそれ以上聞かずに…。

「帰ろうか」

「うん」と、下を向いて答える弘樹くんを連れて帰ったそうです。


そして、家に着いて…、英子さんは何か得体の知れない=おかしいものがなんであるかを思い知ったのです。

家に帰り玄関のドアを開けて、リビングに入るとテーブルの上には房に付いたバナナが5本置いてありました。

弘樹くんが、バナナをジッと見ているので英子さんは、本当に何気ないく「お腹すいた?バナナ食べる?」と聞きました。

弘樹くんは「食べていいの?」と驚いたように聞き返してきたそうです。

「食べていいよ」

「本当に食べていい?」と、弘樹くんはもう一度英子さんに聞きました。

「いいよ」

「怒らない?」と、なおも弘樹くんは英子さんに確かめます。

「怒らないよ」と、弘樹くんがなぜそんなことを聞くのか不思議に思いながらも、英子さんは優しくいいます。

すると、

「うん」と返事した弘樹くんは…。

テーブルのバナナを左腕で囲い込んで、身体を前のめりにし、誰にも取られないようにしてから、バナナを立てつづけに二本、三本とむさぼるように口の中に次から次へと押し込みながら食べ出したのです。

その姿に「弘樹…」といって英子さんは絶句したそうです。


「弘樹、ゆっくり食べていいのよ。それに、一度にみんな食べなくてもいいのよ。今、食べられる分だけ食べればいいんだから」と英子さんが言うと。

「だって、出されたときに食べないと、次はいつ食べられるか分かんないもん。それに、おばあちゃんに何度も聞いて、いいよっていっても、後から急に食べちゃダメっていわれて…途中でおばあちゃんに取られちゃうんだ。だから、早く食べないといけなんだ。それに黙って食べると…叩かれるし」と弘樹くんは、英子さんに言ったそうです。

そう、弘樹くんは、「我が家の大事な跡取りの男の子」と、もっともらしいことを世間に向けて言いながら、その実、ご飯を食べさせない…ネグレクト…。

虐待。

育児放棄されていたのです。

弘樹くんは、あの姑から、これまでまともにご飯を食べさせて貰えていなかったのです。

だから、英子さんが新幹線から降りてくる弘樹くんを見て、小学4年生にしては小さいと感じたのはそんな現実があったからなのでした。


ここに来て英子さんの怒りは爆発しました。元夫の携帯は電源が切られていて繫がりません。

そこで…、英子さんは、怒りにまかせて姑に電話したのです。

が、姑は「今度生まれた子はね、高卒のあなたとは違って、有名大学卒のお嫁さんから生まれた子なのよ。弘樹よりずっと優秀なの、だから、弘樹は、あなたにあげるわ。跡取りは、二人もいらないでしょ?それに、あなた、弘樹を欲しがっていたじゃない?弘樹の荷物?あぁ、それだけよ。他になにが有るって言うの?優秀じゃない子には、それで充分でしょ?そうそう、それから、もう二度とここに電話してこないでね。あなたとは他人、弘樹も今日から他人、うちの家とはなんの関係もないんだからお願いね。あっ、それと、手続きは全部弁護士の先生にお願いしてあるの、うちの財産は弘樹にはいかないのよ。今まで育ててあげたんだからそれは当然よね」と、一方的にしゃべると…、ガチャンと大きな音をさせて電話を切られてしまいました。

受話器をその場で叩きつけてやろうかと睨みながら、英子さんは、弘樹くんの荷物がランドセルと布の小さな手提げカバンに入った、ほんの少しの衣服だけである理由がこれでやっと分かりました。

いえ、理解したのです。

英子さんのことを「高卒、高卒」と、ことあるごとにバカにしていた姑は、英子さんが産んだ弘樹くんを、英子さんの代わりにバカにして、いじめていたのだということを知ったのでした。


「全部食べていいんだよ」

英子さんの携帯が鳴りました。

「あっ、弘樹、そう、今から塾ね。うん…、うん…、そう全部弘樹のよ。そう、全部弘樹が食べていんだからね。残りは帰ってから食べていいんだよ。はい、じゃぁ、気をつけていってらっしゃいね」と英子さんは電話を切りました。

このとき弘樹くんは中学1年生、学校から帰ってお腹が空いてテーブルの上にあるバナナを食べたいけど英子さんがいない。

それで、そのバナナを食べていいかと電話してきたのです。

英子さんはいいました。

「この頃は、随分とましになったのよ。抱え込んで食べたり、一度にバナナをあるだけ何本も食べたりはなくなったんだけどね。まだ、まだ、黙って食べると叩かれる恐怖が残っているみたいで、私がいないと必ず、食べていいかと電話してくるのよ」と、英子さんは困ったように笑いながら話してくれました。


この話を聞いて、この姑は孫が可愛いのではなく。

英子さんのことが憎くて、苦しめたくて、でも、自分がいい人だと見せたくて「我が家の大事な跡取り」と声高らかに弘樹くんのことを世間に宣言し。

その実、家の中で平気でなんの力もない幼子を虐待していたのです。

このほかにも、悲しいことですが…、似たような話を何件か聞きました。

つまり…。

この世には、姑という名の「」が、扉の向こうに潜んでいるのです。

さも、上品な顔をして…。



そして、

そんな話を聞くたびに…。

決して口には出せませんが…、

心の中で密かに・・「ろくな死に方せんぞぉー、ババァ!」・・と、悪態をついていました。


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知らないことが知りたくて、メンタル、カルマ、礼法に漢方スクール…etc.とお勉強。で、ですね、人を動かしているのは無意識、でも、この無意識を味方につけるとスゴいんだ~と気づいたら…、なぜか、「えっ?!そうくるかぁ~」と、色んな場面に遭遇しれしまう…という面白いことが起こりだすのでした。

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