「四歳児に何がわかるんだ」

末期癌を患っていた私の夫は、ある朝、当時三歳半だった息子の目の前で崩れ落ち、そのまま亡くなりました。倒れた時に頭を打ったので額から血を流していて、私が駆け付けた時には、すでに虫の息でした。三歳の息子にとって、父の存在は彼の世界の半分です。その世界が突然目の前で崩れ落ち、どれほどの衝撃を受けたのか、私には想像する事しか出来ません。

夫が亡くなった時、私に声をかけてくれた人は沢山いましたが、当時3歳半だった息子に、父の死について直接言葉をかける事が出来た人は一人もいませんでした

「どうせわからないよ」
「すぐ忘れるよ」
「何か理解できる年じゃないよ」

「三歳や四歳で何がわかるんだ」

果たしてそうでしょうか?

未熟な子供でも一人の人間として扱われるべき

確かに子供はあらゆる面で未熟です。しかし、決して「未完成」ではないと思うのです。小さくとも、幼児ともなると、私たちと同じように他人から認められることや、話を聴いてもらえる事を欲っするようになります。そして、相手を思いやる事も出来る「同じ人間」です。小さいながら、一人の人としての尊厳も持ち、プライドもしっかりと示します。

どんな事でも、子供だからと馬鹿にせずに「ちゃんと教えてほしい」と思っているのです。

「死」をきちんと伝える

語彙も経験も少ない子供たちに「」について伝える時には、、わかりやすい言葉を使い、比喩表現などは用いずに、ストレートに伝える事が大切です。たとえば、「眠っているだけよ」「遠い所にいったのよ」と伝えると、子供は文字通りに理解してしまうからです。そして、亡くなった人が再び目覚める日、あるいは、帰って来る日を心待ちにするようになってしまいます。

子供は子供なりに色々と考えています。しかし、「死別」を理解することは、大人の助けなくしては困難で、理解できない状況に不安や恐怖を抱えてしまっている事もあります。まだ小さいからと言って説明を『後回し』にしてしまうと、子供が最も助けを必要としている大切な時期を見逃し、かえって子供の心に恐怖や混乱を植え付けてしまうことになるかもしれません。

幼い子供に心のケアは必要ない?

「怖かったね」「悲しかったね」と共感してあげる事、そして、「君は一人じゃない」と安心させてあげる事、子供の心の中にある思いを表出させてあげる事は、たとえ就学前の小さな子であったとしても大事な事です。

夫の死後、息子の様子を見つめ、話を聴き、小さな心にある思いを受け止めて来た母として、例え幼い子供であっても「心のケア」は絶対的に必要だと断言できます。子供は、大人と同じように繊細で、傷つきやすい面を持ち、そして、愛情を与える事も、受け止める事も出来る『心』をちゃんと持っているのです。人を愛せるという事はつまり、愛する人が亡くなった時に、子供もまた私たちと同じように悲しみ、苦しむ心を持っているという事です。

息子の場合

息子には、父親の死を、子供が理解できる範囲の言葉を使い、湾曲表現を避けて、ストレートに伝えました。そして、息子が聞きたいという意思を示した時には、何度でも話をするように心がけました。

当初、父の死を目の当たりにした息子の脳裏に残っていたのは次の三つの事でした。

①ダディはベッドから落ちて頭をぶつけた。

②血が出ていた。
③人は簡単に死んでしまう。

それが今は、

「悪い癌になって、一生懸命闘ったけど死んでしまった。もう帰って来ない」

と理解する事が出来る様になりました。息子の中にあった恐怖や混乱がなくなったように思います。

そして、悲しい気持ちや、寂しい思いを口に出す事は、少しも悪い事ではないんだと伝えました。

子供は子供なりに考えている

(優しくて、いつも笑顔の父が大好きでした。)

冒頭に書いたように、死別後に私以外の人が息子に対し「死別」を意識して声をかけることは一度もありませんでした。

怖かったね。お父さんいなくなって悲しいね。」

たとえば、こんなちょっとした声かけ。ほんの小さなきっかけで、思いを表出することが出来たり、見ていてくれる人がいるという安心感を覚えることが出来たりするものではないでしょうか。


夫が亡くなった後、幾人かの人に
「こんな小さな子には何もわからない。」「すぐに忘れるよ」と断言された四歳の息子ですが、ある夜大粒の涙を流しながら、こんな事を言いました。

「ぼく、ダディの事を考えたら、ハートが痛くなる。だから、ぼく、ぼくのハートに怒ってる。ぼくのハートこわれてしまう。苦し過ぎる。」

この痛みは息子が父を愛したまぎれもない証です。たとえ子供であっても、愛情が深かった分、同様に悲しみもちゃんと襲ってくるのです。


向き合って話す事の大切さ

出典 http://www.gettyimages.co.jp

「小さな子には何もわからない。」「どうせ理解できない」そう考える人はたくさんいるかもしれません。小さな子が理解できる事には限界がある事も事実です。だけど、子供も「感じる心」を持つ人間です。愛した人がいなくなれば悲しいし、自分を支えてくれていた存在が消えてしまえば不安や恐怖を感じます。苦しんで涙を流します。そして、時として、私たち大人よりも繊細で、驚くほどに優しい答えを導きだしたりもするのです。

考え抜かれた複雑な言葉よりも、「悲しかったね」と抱きしめてもらえたら、そんな一言が、不安や悲しみと向き合ってきた小さな心を、束の間でも温かい優しさで包み、癒す事ができるのではないかと思います。

この記事を書いたユーザー

Maria このユーザーの他の記事を見る

オーストラリア在住。息子が生まれて一年半後、夫はアスベストが原因の悪性中皮腫という、これといって有効な治療法もない、強烈な癌を発症。そして、二年の闘病を経て他界しました。今は、5歳になった息子と二人、夫の眠る地で、毎日を大切に生きています。中皮腫の闘病記・アスベストの事・死別後の息子との二人三脚の毎日をブログに綴っています。http://ameblo.jp/maria1428

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