秋、骨折。

秋の終わりのある日。小三の末娘が転んで骨折をしました。
私の娘は先天性骨形成不全症という、骨が折れやすい病を抱えています。

足の長骨には上下左右ともロッドを挿入していて折れづらいようにしてあるのですが、それでも転んだ程度の衝撃でもヒビが入ってしまいます。多少のヒビはしばらく固定する程度で治ることもありましたが、今回はそのロッドごと足が曲がってしまいました。かなりの重症でした。

手術をしてもらって、二十七度のロッドの曲がりを十三度まで戻せたという話を聞きました。

それで大丈夫なの?という不安を抱えながらも、先生が大丈夫と言うならそれを信じよう。信じて前を向こう、と考えることが私たちの唯一にして最大の武器でした。

冬、出会いと別れ。

とは言え、回復を待つ入院期間は、親子ともどもとても暇な時間です。
本や折り紙、ゲーム等で目いっぱい遊んでも、なかなか時間は動きません。付録も沢山作りましたが、小一時間もすれば飽きてしまいます。

そんな私たちを救ってくれたのが同じ病棟に入院していたヒロシ君たちでした。
少し小太りで陽気なヒロシ君も、はじめはちょっと覗きにきては、目が合うと慌てて隠れてしまっていましたが、ゲームのことで話が合うと、同年代の子供たちはあっという間に打ち解けました。それからは暇さえあれば娘の病室で話をしたりゲームをしていました。

ヒロシ君たちは男の子ばかりの四人組。それぞれ長い入院生活なのだと聞きましたが、皆とても明るく見えました。おかげで娘の退屈はすっかり解消されていました。

ようやく娘も車椅子で動けるようになると、五台の車椅子が病棟内を闊歩しました。特に「マリオカート」を通信対戦するのが皆大好きで、それぞれ検査や入浴で呼ばれるギリギリの時間まで、何度も何度も飽くことなく繰り返していました。

娘の元気な笑い声に、ヒロシ君たちも子供らしい高い声で応えていました。病室にいることを丸っきり忘れさせてくれる陽気な笑い声でした。

まだ当分入院が続きそうだっただけに、妻とも「友達が出来て良かったね」と話していた矢先のこと、ベッドの都合で娘は別病棟に移ることになってしまいました。

行き先の病棟は、赤ちゃんばかりだと言います。ガッカリする娘。話を聞いたヒロシ君が看護師さんに

「友達をバラバラにするのか!」

と食って掛かったと聞きました。娘だけでなく、みんなにとっても切ない別れでした。

別病棟に移ってからの長い長い二週間後。ちょうどクリスマス・イブの日に娘は退院しました。

退院の日、ヒロシ君からの手紙を看護師さんが持ってきてくれました。

「退院できて、よかったな」と一言、そしてマリオとヨッシーが仲良く並んだ絵が描かれていました。

マリオはヒロシ君、ヨッシーは娘が好きなキャラクターでした。決して上手な絵ではありませんでしたが、丁寧に塗られた赤と緑が、私には聖なるクリスマスリースに見えました。

ヒロシ君はこのまま病院で年越しなのだそうです。

「はやく退院できますように」

と娘が書いた返事のクリスマスカードのマリオは、ちょっと小太りでしたが、でも飛び切りやさしい笑顔をしていました。

春を越して。夏、再会。

その翌年、娘が小四の夏。治療の為の一週間の入院の時のことです。
入院手続きを終えてようやくベッドに落ち着いたところ、病室前の廊下をちょっと太目の男の子が鼻歌を歌いながら陽気に歩いて行きました。

「でぶっちょって、あんな感じの子が多いんだよね」と娘が少しお姉さんぽく言いました。

それからちょっと遠くを見るような目をして

「でもね、でぶっちょって、結構やさしいんだよ」
と言って、ニコリと笑いました。

きっと、こうして少しずつ、大人になっていくのだろうなと感じた、とても暑い夏でした。

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心にいつも熱い想いが詰まっている「夢多きアラフィフ」です。子育ても給料を運ぶ以外はほぼお役ご免になりましたので、これからの自分はどう生きるかを模索しながら、第二の青春を生きています。『アオハルはいつも間違える』ので、記事には誤字脱字のなりように気をつけます(^^;;

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