この話を知り合いの彼女から聞いた時は…、正直、涙がほろほろとこぼれてしまいました。

「二人だけの小さな生活」

お母さんと二人で小さなアパートで暮らすヒロくん(仮名)は、「お母さん、もうすぐ幼稚園の遠足だよ」と、三週間後にある幼稚園に入って初めての遠足をそれはそれは楽しみにしていました。

ヒロくんのお母さんは、昼間は小さな印刷会社の事務でパートとして働き、仕事が終わると大急ぎで幼稚園にヒロくんを迎えに行きます。

が、いつも一番最後のお迎えでした。

それから二人で家に急いで帰って、お母さんはヒロくんと夕飯を食べると、後片付けをしてから近所の食堂に皿洗いのバイトに行っていました。

それでも二人の生活は、毎月カツカツで余裕などなかったのです。

でも、お母さんは考えていました。

遠足の日は、他の子たちと変わりない特別な日のお弁当、可愛らしいお弁当を作ってあげたいと…。

ですが、これ以上どこをどう見ても節約のしょうがありません。一番手っ取り早いのは自分の食事を一食抜くことです。

でも、朝と夜はヒロくんと一緒に食べるので、その時にお母さんが食べなければヒロくんにばれてしまいます。

そうしたら、ヒロくんはお母さんに「どうして?」と聞くでしょう。なんといって誤魔化していいのかお母さんには良い考えが浮かびませんでした。

それに、もし、ヒロくんの遠足のお弁当の為に自分が(お母さんが)食べることを我慢しているのだとヒロくんが知ったなら、きっと、楽しみしている遠足に行かないというかもしれません。

お母さんは、それだけは絶対にしたくなかったのです。ヒロくんには、初めての遠足を楽しんで欲しかったのです。

そこで、お母さんは考えました。

そして…、

〝そうだ、私のお昼を抜けばいい〟そうすればヒロに自分が食事を抜いていることは分からない。

お母さんは、明日から自分のお昼ご飯のお弁当を持って行かないと決めたのでした。


「お母さんのお弁当」

翌日から、お母さんはヒロくんのお弁当は作っても自分のお弁当を作りませんでした。

朝、お弁当を作るお母さんにヒロくんが聞きました。

いつもはヒロくんと、お母さんの二人分のお弁当箱が並んでいるのに…、今朝はヒロくんの分ひとつしかありません。

「お母さんの分は?」

「お母さんはいいの、お腹いっぱいだからお弁当いらないのよ」

「お腹すかない?」

「大丈夫よ、お母さん大人だから」

「ふぅ~ん」

それっきり、ヒロくんはなにもいいませんでした。

さすがにお昼抜きは、お母さんにとってもきついものがありました。夕方になるとお腹がすいて、頭がクラクラします。

それでも、ヒロくんの喜ぶ顔が見たくて「我慢、我慢、ヒロの遠足までの我慢…」と自分に言い聞かせ、ヒロくんのお母さんは辛い三週間を乗り越えたのです。


「これは、お母さんの分」

ヒロくんが楽しみにしていた遠足のお弁当、お母さんはこの日、腕によりをかけて作りました。

仕事が終わり。ヒロくんを迎えに行くお母さんの足取りは軽やかです。

〝きっと、ヒロは喜んでくれたはず〟と思うと、お母さんの心までウキウキしていました。

この日もヒロくんが、一番最後のお迎えでした。教室の入り口に下を向いたヒロくんと先生が立っています。

お母さんは、どうしたのかと思いました。

すると…、

「ヒロくん、ちょっと教室の中で待っていてくれる。先生、お母さんと少しお話があるの」と先生がヒロくんに優しくいいました。

「うん…」と、ヒロくんは下を向いてトボトボと教室の中に入っていきます。


それから先生は、お母さんに「今日、ヒロくん。お弁当を半分残したんです」と先生が言いました。

「えっ?」と、お母さんはびっくりしました。
〝お弁当、美味しくなかったのかしら…〟一瞬、お母さんは頭の中が真っ白になりました。

「怒らないで聞いて下さい、お母さん。お弁当がけっして美味しくなかったわけじゃないんです。ヒロくん、美味しい、美味しいって食べたんです」

「じゃぁ、なぜ?半分残したんでしょうか?」
〝どこか、身体の具合が悪いのかしら…〟と、咄嗟にお母さんは思いました。

「それが、何度聞いても…」と先生の言葉がつまります。

「何度聞いても?」とお母さんは先生に聞き返しました。

「はい、何度聞いても、これはお母さんの分だから食べない。持って帰るっていうんです」

「え!」といったきり、お母さんの目から涙がポロポロ流れて落ち出しました。

驚いた先生が「お母さん、大丈夫ですか?」と、優しくお母さんの肩を抱いてくれます。

お母さんはたまらなくなって、ヒロくんが楽しみにしている遠足のお弁当を、他の子どもたちと変わらない特別な日のお弁当を作ってあげたくて、自分がお昼を抜いていたことを先生に話しました。

「そうですか、そうだったんですね。だからヒロくん、お弁当を全部食べなかったんですね」と、先生はこれで理由がやっと分かったといように言いました。

「はい、きっと、あの子…。私が、お昼のお弁当を持って行かなかったことの意味を感じていたのかもしれません」と、お母さんは泣きながら先生にいいました。

「そうですね、多分そうだと私も思います。ヒロくん、お弁当を半分残したことを上手く言えないから、お母さんに怒られないかと心配していたんです。それで、私がヒロくんのお母さんが来たら先にお話するからっていたんです。お母さん、お弁当、ヒロくんが残したお弁当、ヒロくんのお母さんへの思いを食べてあげて下さい」と、先生は優しく言ってくれました。

「はい、…そうします」と、お母さんは嬉しそうにこたえました。

「じゃぁ、ヒロくん呼んできますね」

そういって先生は教室に入ると、下を向いてうなだれているヒロくんのところに行き、何か話しかけていました。

先生の話が終わる頃、ヒロくんの顔は嬉しそうに輝いて、元気な声で「お母さーん!」とお母さんのところに走ってきました。


「公園での二人だけの遠足」

先生に「さようなら」を言って、ヒロくんとお母さんは家に向かって歩き出しました。

そして、お母さんがヒロくんに言いました。

「ねぇ、ヒロ。お母さんの為にお弁当半分残してくれたんだってね」

「うん」と嬉しそうにヒロくんが言いました。

「そう、ありがとう。ねぇ、ヒロ。今から公園で、お母さんと二人だけの遠足しない?そこで、ヒロが残してくれたお弁当を、お母さんが食べるの」

「うん、する!二人だけの遠足する」と、ヒロくんは満面の笑みでお母さんにこたえます。

二人は家に帰る途中にある公園のベンチに座り…、ヒロくんが半分残したお弁当を広げました。

そして、お母さんが嬉しそうに「では、いただきます」といって一口食べました。

「美味しい?お母さん」と、ヒロくんが真剣な顔をしてお母さんに聞きます。

「うん、とっても美味しい」と、お母さんがこたえます。

「うん、お母さんのお弁当は世界一美味しいもん」と、ヒロくんが嬉しそうに言うので、お母さんは泣くまいと思うのに涙がポロポロ溢れてきました。

「どうしたの?お母さん、お腹痛いの?」

「ううん、お母さん嬉しくて、美味しくて泣けてきちゃった。ヒロも一緒に食べよう」

「うん」

こうして二人だけの遠足は、ヒロくんが残したお弁当の半分を、また、半分ずつヒロくんとお母さんとで仲よく食べたそうです。

この話を聞いて、子どもは、大人の足元の小さな世界しか見えていないと…大人は思うかもしれないけれど…、違うんですよね。

本当は、一生懸命に大好きな人を見ているんです。時には、大人よりも鋭い感性を持って…。

そして、この話をしてくれた彼女が、「ねぇ、私、この話を聞いて…ね。思ったの、人間どんなに辛くてもたった一つ、たった一つだけ…、誰にも奪われない大切な思い出があれば生きていけるなー、って思ったの」と、最後に教えてくれました。

この記事を書いたユーザー

しーちゃん このユーザーの他の記事を見る

知らないことが知りたくて、メンタル、カルマ、礼法に漢方スクール…etc.とお勉強。で、ですね、人を動かしているのは無意識、でも、この無意識を味方につけるとスゴいんだ~と気づいたら…、なぜか、「えっ?!そうくるかぁ~」と、色んな場面に遭遇しれしまう…という面白いことが起こりだすのでした。

得意ジャンル
  • 社会問題
  • 国内旅行
  • グルメ
  • 暮らし
  • 感動
  • コラム
  • おもしろ

権利侵害申告はこちら

Spotlightのライターなら1記事最大3000円もらえる!日本最大級メディアでライターデビューのチャンス