それは…以前勤めていた会社での、ちょっと日常では体験出来ない出来事でした。

『ゴミ置き場に捨てられていた注射針…』

夏休みまっただ中、管理しているマンションの清掃担当から「ゴミ置き場に針つきの注射器が捨ててあるんだけど…、」と、ゴミ収集してくれていなかったゴミ袋の中に不審な注射器があると電話が入りました。

「注射器ですか?昆虫採集用じゃないですか?」

丁度、夏休み中だったこともありそうこたえたのですが、「うん、でもそれにしては…、スゴく細い針がついてる」「それは、病院で使う注射針…、医療用ってことですか?」「うん、そう見える」と言われました。

「ううーん、そこのゴミ置き場は通りに面していますから…、誰かが故意に捨てていったのかもしれませんね」と、丁度、医療機関用のゴミは有料でお高い、それを節約したくて不法投棄していたというニュースが流れていたので、そういうやからかもしれないとその時はそれで終わりました。

だから、まさか、それが事件に関係あるのだなんて…、思いもしませんでした。

『警察からの電話』

注射針の不法投棄などすっかり忘れた12月のある日、警察から電話が入りました。

ですが、今のご時世、電話をかけてきたのが本当に警察かは疑わしいことです。一旦電話を切り…、時間をおいて再度かけなおしました。

電話は確かに警察の麻薬担当課の刑事さんに繫がりました。

そこでの話は、注射針が見つかったマンションの住人が麻薬を使用しているということでした。はっきり言って、にわかには信じられない内容です。

なぜなら、その方は、来年小学校に上がる女の子と生まれたばかりの男の子の良いお父さんだったからです。

『刑事さんのご来店』

とにかく詳しい話を聞きたいと…、刑事さんはすぐにやってきました。

そして、
「何か最近変わったことはなかったですか?」という刑事さんに聞かれて、すっかり忘れていたゴミ置き場の注射器の話をそのまま話しました。

「そうですか…、だいたい時期が合いますね。その注射器は?」と聞かれましたが、まさか、そんなことになるなんて分からないから…。

「ありません」とこたえるしかなかったのです。

「そうですか。分かりました。ところで協力して頂きたことがあります」と今度は担当者の男性に刑事さんが言います。

なにを?協力??と思いきや。

内定がほぼすんでいて…。逮捕に協力して欲しいとのこと。

具体的には、マスターキーで玄関ドアを開けて欲しい。そこから先はこちらが対処しますので…、と言われても勝手にカギを開けることなんて出来ません。

と、担当者と刑事さんの押し問答が暫く続きました。

刑事さんは、そちらに迷惑をかけるようなことはないから協力して欲しい。の一点のみで決して折れる気は無いようです。

そこで、仕方なく…担当者は社長に判断を仰ぎ長い話し合いのすえ…、警察に協力することになりました。

『逮捕当日』

刑事さんの指定した日時(確実に本人が在宅している日…、なんで知っているのかは不明?)に担当者はカギを持って出かけました。

マンション入り口で待ち合わせして、部屋の前まで一緒に出向きカギを開けると…。
「はい、もう結構です。ここからは自分たちの仕事ですのでお帰りください」とドキドキ緊張しながら出かけ、さらにドキドキしながら玄関ドアを開けた担当者は拍子抜けして「はぁ~」といってその場からすぐに帰されたそうです。

刑事さんに「すぐに、この場(マンション)から離れてください」ときつく念押しされた担当者はすぐに帰ってきました。

そして、

「あれ嘘やで、テレビでやってるの。ほら、管理人とかがカギ開けたらすぐにワーって警察官や刑事が部屋になだれ込むやん。あれ、嘘。本当はそれしたら俺らに迷惑かかるから、俺らがおらんようになってから入るねん。俺、逮捕の瞬間まで見るのか!って、イヤやなーと思いながらドキドキ緊張したけど…。はい、ご苦労さん、今すぐ帰ってて言われた時は、はっ?なんですか?って力抜けたわ」と担当者の男性がいいました。

「見たかったん?」と聞いたところ。

「いやぁー、ちょっと残念な気もあるけど…、やっぱり知ってる人が連れて行かれるのは気持ちいいもん違うし、見んでよかった」

「こちらに迷惑かけないというのは、そういうことですね」

「そう、そういうことやな」と担当者の男性のひと言で、この話はそこで終わりになりました。

『後日の来店…』

それから一週間ほどたったころ、また警察から話したいことがあると電話があり来店されました。

その話の内容は、
・あの日、本人が在宅していて、証拠品の麻薬をトイレのタンクから見つけたこと。
・海外出張先で薬を手に入れていたこと。

そして、初めは一回きりのつもりが、出張のたびに薬を手に入れ常用していたことが分かったそうです。

「ご協力ありがとうございました」という刑事さんに、担当者の男性が「一つ聞きたいんですけど…、なんで、そんなもんしたんですか?子どもさんもいて、良い会社に勤めてて、これで全部パーでしょ?」

と、その問いに…、

「寂しかったらしいです」と、あっさりとひと言で済ませた刑事さん。

「はぁ?寂しかった…、なにがですか」と驚いて聞く担当者の男性。

「奥さんが子どもにばっかり目が向いて、自分の事を見てくれない。それが寂しくて、いけないと分かりつつ薬に手を出したそうです」

「ええぇー、そんなアホな!」と信じられないという顔の担当者の男性。

「そんなアホが多いんです。多分、女とセットでしょう」と、さも当たり前のようにいう刑事さん。

「海外で女遊びと薬ですか?」

「そういうことです。これから裁判になって刑がきまるでしょう。では、これで」と、まるでいつものことのようにあっさりとそう言ってから刑事さんは帰っていきました。

『退去の連絡』

それから一ヶ月ほどして、奥さんからご主人が単身赴任になり、自分と子どもはマンション近くの実家で暮らすことになったからと、退去の連絡が入りました。

単身赴任…悲しい嘘ですね。
でも、事実を知っているように対応しても仕方がないのです。そんなことしても誰も満足しないし、後味が悪いだけですから…、奥さんの話を信じることにしました。

そして、

「そうですか、かしこまりました。では、すぐに解約の書類一式をお届けします。旦那さん、ひとりで単身赴任は大変ですが、上のお子さは確か来年小学校ですよね。知らないお友達がいっぱいのところより、ご実家ならいままでの幼稚園のお友達と同じ学校になれますから、旦那さんには帰れるまでちょっと我慢して貰いましょう」と、奥さんの嘘のつきあうことにしました。

電話を切りながら、「寂しかったから…」の言葉が頭に浮かびます。

人は、弱い生き物です。失ってから気がついても、もう過去には戻れないんですよね。

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知らないことが知りたくて、メンタル、カルマ、礼法に漢方スクール…etc.とお勉強。で、ですね、人を動かしているのは無意識、でも、この無意識を味方につけるとスゴいんだ~と気づいたら…、なぜか、「えっ?!そうくるかぁ~」と、色んな場面に遭遇しれしまう…という面白いことが起こりだすのでした。

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