ご存知の通り昨日ノーベル賞が発表され、日本からは赤崎勇名城大終身教授、天野浩名古屋大教授、中村修二アメリカカリフォルニア大サンタバーバラ校教授(中村修二氏はアメリカ国籍)の三人に続き2年連続で、医学生理学賞は2013年の山中教授以来3人目の受賞者として大村智北里大学特別栄誉教授が受賞しました。

大村智教授の研究は

「寄生虫による感染症の治療を根本的に変えた」と説明した。大村氏とキャンベル氏はアフリカなどの風土病で感染者の2割が失明するといわれるオンコセルカ症(河川盲目症)や足などが肥大して歩行が困難になるリンパ系フィラリア症(象皮症)、屠氏はマラリアの画期的な治療薬をそれぞれ開発した。

出典 http://www.nikkei.com

大村智教授は受賞のコメントとして

私たちは、微生物のすごい能力を何とか引き出そうとしてきた。微生物がいいことをやってくれているのを頂こうというだけで、自分が偉い仕事をしたとは思っていない。ノーベル賞を受賞するとは思っていなかった。何か一つでも人のためになることができないか、いつも考えてきた。多くの人を救えたという自負心はある。

出典 http://www.tokyo-np.co.jp

ノーベル賞受賞の喜びというよりも驚きに近いコメントを残しました。

定時制高校の先生だった

大村智教授は山梨大学を卒業後に都立高校の定時制の教師をしてましたが生徒の学ぶ姿に胸を打たれ、東京理科大大学院で化学を学び直し研究者をめざしましたがその道は決して楽ではありませんでした。
36歳で米国に留学。帰国前、「戻っても研究費はない」と言われ、それなら「米国で集めるしかない」と、製薬会社をまわって共同研究を打診し、その研究テーマとして選んだのが微生物研究で、微生物研究は北里研究所創設者の北里柴三郎や志賀潔らが培ってきた研究分野でした。

しかし

人間用の微生物由来の化学物質は世界中で研究しているので、競争するのは大変である。むしろあまりやられていない動物に役立てる化学物質を発見しようという話になった。
 家畜動物の病気を救ったり予防になる物質を実用化できれば、飼料代だけでも莫大な節約に結びつく。しかも動物に効くことが分かれば、それだけで動物実験になっているので人間に応用できる道が開けるのではないか。

出典 http://www.hatsumei.co.jp

そうした狙いもあり、先ずは家畜用の微生物研究に目を向けてメルク社が賛同してくれました。

メルク社が大村博士に支払う研究費は年額8万ドル(当時は2400万円に相当)という当時としては破格の研究費供与だった。これは大村博士が招聘されたアメリカの名門大学、ウェスレーヤン大学のティシュラー教授がメルク社の元研究所長という縁があったからであり、大村博士はティシュラー教授にその手腕を高く評価されたために実現した破格の条件でもあった。

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今こそ民間企業と大学との共同研究は当たり前ですが当時メルク社との共同研究は「癒着」と言われたりもしましたが、「いい薬をつくろうと思ったら製薬会社の情報量は重要。世の中のためということを忘れなければ、問題はない」として気にすることなく大きな成果を出します。

さまざまな微生物が作る抗生物質などの探索を進める中で、静岡県内の土壌から分離された微生物が生産するエバーメクチンを発見した。
 この物質は線虫などの神経系をまひさせる一方、哺乳類の神経系には影響しない特性があることが分かった。エバーメクチンを基に、さらに効果を強めた「イベルメクチン」は家畜の抗寄生虫薬として世界的なベストセラーとなった。

出典 http://www.jiji.com

特許を放棄

この世界的なベストセラーとなった「イベルメクチン」は世界に大きな成果をもたらしました。

メルク社との共同研究によって発見したアベルメクチン(イベルメクチン)は動物薬として1983 年から今日まで世界の売り上げ第1位をキープし、ピーク時には年間の総売上が約1,000億円、1981 年から今日までは1 兆8,000 億円ほどとなる。

出典 https://sangakukan.jp

この「イベルメクチン」は動物だけでなく

1987 年のフランス政府の認可を皮切りにヒト用にも各国で認可されて使用されている

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この売上がメルク社と大村智教授に大きな収入として得るはずですが

特筆すべきこととして本薬剤がメルク社より無償供与され、重篤な熱帯病オンコセルカ症およびリンパ系フィラリア症の予防と治療に使用され、これらの撲滅作戦が展開されていることが挙げられる。既に集団投与法が確立され、両者併せると1 億3,000万人余りの人々に投与され、両者ともに2020 年をめどに撲滅作戦が展開されている。メルク社は、この無償供与したイベルメクチンの製造原価を3,750 億円と発表している。

出典 https://sangakukan.jp

メルク社も大村智教授も「イベルメクチン」を無償供与しました。それによって

世界保健機関(WHO)はメルク社の協力を得て、アフリカなど寄生虫病に苦しむ地域にイベルメクチンを配布するプログラムを開始。メルク社によると、2012年までに延べ10億人以上にイベルメクチンが無償提供された。

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10億人以上の命を救い、現在でもそれは続いています。この無償供与によって

WHOによると、西アフリカでは02年までに少なくとも4000万人のオンコセルカ症の感染を予防。象皮症でも00年から対象となる53カ国でイベルメクチンなどの集団投与が進められており、20年までの制圧も視野に入ってきている。 

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この功績によってノーベル賞を受賞したのです。

産学共同研究でも成果

上述したように産学共同研究の先駆けとしてメルク社と大村智教授の共同研究はスタートしました。その時に交わされた契約はこういったものです。

1.北里研究所は、土壌中の微生物が産生しているもので、特に家畜動物などに役立つ化学物質を抽出してメルク社に送る。
2.メルク社はそれをもとに薬剤の開発を行う。研究成果として出てきた特許案件は、メルク社が排他的に権利を保持し二次的な特許権利についても保持する。
3.ただしメルク社が特許を必要としなくなった場合は、その権利を放棄して北里研究所に移譲する。
4.特許による製品販売が実現した場合は、正味の売上高に対し世界の一般的な特許ロイヤリティ・レートでメルク社は北里研究所にロイヤリティを支払う。

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この契約によって実は北里研究所も救っていました。

この契約に沿って北里研究所は1990年ごろから毎年15億円前後のロイヤリティ収入が入るようになる。
 北里研究所は当時、経営が非常に大変な時期だったが、特許ロイヤリティの収益でたちまち建て直し、さらに埼玉県北本市に病院建設まで実現してしまう。

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北里大学の経営も救ってしまったのです。

大村博士が産学連携で250億円以上もの特許ロイヤリティ収益を北里研究所に還流させた

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大学の研究で今一番大変なのは研究費の捻出です。大村智教授はそれを安定的収入として入るように実現させました。

大村智教授の例は珍しい例で大学は経営も厳しく研究費の捻出に苦労しているところが多いです。
例えばIPS細胞でノーベル賞を受賞した山中教授もノーベル賞を受賞してから国から多額の補助金が出るようになりましたが、それまでは研究費の捻出に苦労して研究費を得るためにマラソン大会に出場して宣伝することで企業から共同研究はできないかと考えたこともあったそうです。

理系文系問わず現在大学は独立行政法人化して先ずは費用を得るために教授が走り回る状況が続いています。こうした状況を変えるには大学とはなんなのか?研究者の研究はすぐに役に立たなくても将来のための研究になるのか?短期的な利益ではなく長期的な視点が必要で大学経営にビジネスの視点が必要でも研究者にビジネスの視点は必要なのか?というのを考える時期なのかもしれません。

大学は就職するまでの予備校ではなく最高の学問を学びに行くところという大前提が崩れてるような気がするのは筆者の思い過ごしであって欲しいです。

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