”愛犬家” すなわち ”犬を愛する人々”
読んで字のごとしで、今更解説するまでもありません。

しかし、一口に愛犬家と言っても十人十色。
犬の愛し方には、自分なりの流儀があるようです。

とりわけ、愛犬に与える食事に関しては……

愛犬家たちの争い

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愛犬家たちの間で、絶えず議論の的になるのが、愛犬の食事に対する考え方です。
これには大きく2派の意見があります。

1つは、犬は市販のドッグフードを食べるのが一番とする派。
このグループには、ドッグフード至上主義と言えるほどに先鋭化した人たちもいて、犬の栄養バランスを考えると、ドッグフード以外のものは食べさせるべきではないとの意見もあるほど。

もう1つの考えはそれと対極で、大切な愛犬の食べるものは、手作りにすべきとする派。
食の安全を担保するには、飼主が材料を全て把握できる手作りフードが一番であるという考え方で、こちらの方にもドッグフード同様に、先鋭化した人たちが存在します。

愛犬家と言うのは面白いもので、普段は穏やかな性格の方も、こと犬の話となると自分の考えをなかなか曲げません。対立の図式に発展することもままある事です。

犬の食事に関しては、自分で工夫できる範囲が広く、自分流を構築しやすい側面があるからでしょう。インターネット上にドッグフード至上主義と、手作りフード推進派の闘いの痕跡が数多くの残されています。

ドッグフードの市場

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ここでドッグフードの市場について調べてみました。

一般社団法人ペットフード協会の資料、『平成25年度ペットフード産業実態調査の結果』を閲覧すると、ペットフード全体での出荷ベースの市場規模は、2681億円と記されています。(※1)
同資料に記載されているペットフード出荷量の内訳を参考に、ドッグフードに絞った市場規模を算出してみると、出荷ベースで1440億円となります。(※2)

愛犬家によるドッグフードと手作りフードの争いは、実はこの巨大な市場の規模を左右する争いなのだと解釈しても良いのかしれません。

『平成25年度ペットフード産業実態調査の結果』
平成26年12月 一般社団法人ペットフード協会

ペットフード出荷総額 268,132(百万円)
ペットフード出荷量  655,082t
(内訳)
 犬用   351,742t
 猫用   372,928t
 その他用  31,429t

出典 http://www.maff.go.jp

(※1)
民間の調査会社の資料を眺めると、小売金額ベースの市場規模は3000~4500億円。
数字の幅は調査規模や、調査手法の違で生じたものと思われますが、どちらにせよ大きな市場であることは間違いないようです。
(※2)
本文上述と同じ計算方法で、小売金額ベースによるドッグフード市場規模を算出してみると、1610~2416億円に換算されます。

それぞれの主張

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ドッグフード派にも、手作り食派にも、それぞれなるほどと頷ける理屈があります。

まずは、ドッグフード派の意見はこうです。

ドッグフードは大手メーカーが多大な研究費を投じ、長い年月を掛けて、膨大な試験を重ねて開発した、最もバランスの優れた栄養食品。犬はドッグフードを食べるのが、健康上一番良い選択である。

次に、手作り食派の主張はこうです。

全てのドッグフードの原材料が、必ずしも犬にとって良いものだけではない。成分表に書かれているものが全てとは限らず、微量な添加物や保存料どは記載されない、または見過ごされている可能性がある。
また牛肉、豚肉、鶏肉など、材料としては適正なものであっても、それらが食べていた飼料に有害物質が含まれていた可能性もある。病死した動物の肉が含まれていても、消費者にはそれを知る術がない。
よって、材料が全て把握できる手作り食が一番安全である。

ペットフード安全法の施行

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2007年3月米国で、有害物質メラミンが混入した中国産ドッグフードにより、数千頭の犬、猫が死亡したことから、2008年の6月に『ペットフード安全法』(正しくは、愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律)が施行されました。

当初は微量成分に関して表示義務が無い、罰則規定が無いなどの欠点を指摘され、ザル法との悪評を受けた本法も、その後の改正で、より現実的にペットを守る方向に変化を遂げているようです。

現状は商品に含まれる原材料の全成分の表示が義務づけされているようですが、その成分表を読み取って、安全なドッグフードを選択する責務は飼い主側に課されたままです。しかしこの『ペットフード安全法』によって、手作りフード派の抱く、”市販のペットフードには、何が配合されているか分かったものではない” という懸念は、ある程度払しょくされたと言っても良いでしょう。

両派の主張を取り上げたサイトも

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愛犬の食事は議論を呼ぶ題材だけに、インターネット上にはドッグフード派、手作り食派のそれぞれの主張を取り上げたサイトや記事が多数存在しています。
これらのサイトには、ドッグフードと手作り食のそれぞれのメリットやデメリットが、分かりやすくまとめられており、全体の構図を俯瞰することができます。

下記に、中立的な立場で両者をとらえたサイトをご紹介します。

獣医師はこう考えている

出典著者撮影

海外経験が豊富で、国内外のペット事情に明るい、ラクーン・アニマルクリニックの木佐貫院長に、ドッグフードと手作り食の論争について、意見を聞いてみました。

ドッグフードにまつわる論争について、どう思われますか?

「その議論は昔からあるんです。発端は1980年代にオーストラリアの獣医が、『犬は狼由来の生き物だから、本来は当時食べていた生肉と骨を食べるのが、一番理にかなっている』という論文を発表しことに端を発します。

当時は獣医や研究者たちが、2派に分かれて大変な論争を交わしました。合理的な欧米人たちがやることでしょう。それは大変なものでした。
片方の側が膨大な実験データを裏付けに、『やはり生肉が良い』という論文を発表すると、もう一方ではドッグフードのメーカーが、巨大資本を背景にでかい研究所を作って、『いやいや、実はドッグフードの方が良いんだ』と反証してくるわけですよ。メーカーにとっては死活問題ですからね」

その論争には決着がついたんですか?

「決着なんかつきません。議論はずっと平行線のまま今でも続いていますよ。獣医も研究者も疲れ切ってしまって、『もうその話はしたくない』って心境ですね。今の手作りフード、ドッグフードの論争はその延長にあるものです」

木佐貫先生はどう思われるんですか?

「私はどちらでもないですね。まずはドッグフードですが、あれが一般化したことで、犬の平均寿命が倍以上に伸びたのは確かです。その功績は認めなければならない。
有害物質や病気の動物肉が混入しているという懸念は、実績のある国産メーカーなら可能性は低いでしょう。スーパーで売られている格安の肉にだって、飼料に混ぜられた抗生物質が残存していたりする可能性があるし、むしろそっちの方が危ないんじゃないかと思ったりするほどです。
しかしね、客観的に考えるとドッグフードはちょっとおかしい。同じものを延々と何年も、下手をすると一生食べ続けるなんてことは、そもそも動物の食事としては、不自然なんですよ。

じゃあ、手作りが良いかというとそうとも言えない。よほど勉強して、労力とお金を掛て取り組まないと、結局犬に似たようなものを繰り返し食べさせることになるので、栄養バランスとしては良くないものになる。
折角綿密にカロリー計算をして食事を作っても、犬にだって好き嫌いがあるから、ある食材だけを残したりするでしょう。それを次の食事の時に、別の食材やサプリメントで、補ってやらないといけないじゃないですか。厳密にやろうとすると、大変なんですよ。

結局、犬にどういう食事を与えるかは、飼い主さんがどこまでやれるかに掛かってきてしまいますね。あとは飼主さんの考え方次第でしょうね」

木佐貫 敬

麻布大学獣医学部獣医学科卒業
Murdoch Uni Western Australia School of Vet Sceience卒業
Companion Animal Surgery (Singapore) 勤務
フロリダ州マイアミ South Kendall Animal Hospital 勤務
現在、ラクーン アニマル クリニック 院長
 
日本及び米国フロリダ州・ハワイ州獣医師免許
日本獣医師会・米国獣医師会会員

出典 https://sites.google.com

比較なんて実はできない

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愛犬家の間で沸き起こるペットフードと手作りフードの議論。どうやらそれは1980年代から専門家の間で交わされている、大論争に端を発するもののようです。

愛犬家同士の議論をつぶさに眺めてみると、必ずしもその議論がかみ合っていないことに気が付きます。最高品質のドッグフードと、カロリー計算さえされていないような手作りフードが比較されたり、その逆で、最高の状態の手作りフードと、低価格なドッグフードが比較の対象になることもあるからです。

もしも今ここに、理想的なドッグフードと理想的な手作りフードの両方があったとすれば、きっとそのどちらも、愛犬にとって素晴らしい食べ物であるに違いありません。
しかし、もしもそれが粗悪なドッグフードと、粗悪な素材で作られた手作りフードだったとすると、両方を比較するまでもなく、どちらも愛犬にふさわしくない食べ物と言えるでしょう。

それぞれの側に品質の幅があるものは、単純な比較が難しいのです。

飼主の選択

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それでは、愛犬にとって、良い食べ物とは何なのでしょうか?

その答えは一つではないはずです。幾つもある選択肢の中から、自分の愛犬と自分のライフスタイルに合う正解を見つけ出すことが、愛犬家の役割と言えるでしょう。
どんなに良い理想の食べ物があったとしても、飼う側がそれを恒常的に愛犬に与えられる状況になければ、絵に描いた餅に過ぎません。

愛犬家ごとに、出来ることと出来ないことに幅があるのが現実です。自分の見つけた正解は、他の愛犬家にとっての正解とは違うのかもしれません。
ですから、自分にとっての正解は他の方に押し付けるべきではないし、他の方が見つけた答えは、例えそれが自分の意にそぐわないものであっても、批判すべきではないと思います。

愛犬家にとって本来の目的は、愛犬の健康であるはずです。議論に勝つことが目的に摩り替らないように、注意が必要です。
そもそも30年以上もの間、多くの専門家を翻弄し続けている論争に、今ここで決着がつくというのも考えにくい話。きっとそれはこれからも50年、100年と、延々と続いていくものに違いありません。

愛犬家はペットフードと手作りフード両方の、メリットとデメリットをしっかりと把握した上で、どちらかを選択する。或いは両者の良いところ取りをすることが、大事なのではないでしょうか。

「幾つもある正解を、臨機応変に渡り歩いたって構わない」
愛犬家がそんなしたたかな視線を持つことが、自分の愛犬に良い食事を与える有効な手段のように思えます。

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某大学工学部を卒業後、当時黎明期だったビデオゲーム業界に。エンジニアを希望するが、配属先は企画。結局在籍中はデザイナーとして過ごす。退職後はデザインツールの開発、CGの技術開発、TVアニメの企画など。目下の興味の中心は”犬との生活”。14歳のミニチュア・ブルテリア、ピーチーが相棒。

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