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会社の存続問題にまで発展しつつあるフォルクスワーゲン社の不正ソフトウェア事件。

全世界を巻き込んだ騒動となっていますが、メルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で世界的ソフトウェアエンジニアの中島聡さんは、自分だったら絶対にしないとは言い切れないとし、中島さん自身も似たようなケースに遭遇したことがあると告白しています。

VWスキャンダル

フォルクスワーゲン社のディーゼル車に、排ガス検査の時だけ排ガスを減らす特殊なソフトウェアが組み込まれていることが発覚し、

会社が存続の危機に陥っていますが、エンジニアの立場から言えば、必ずしも「自分だったら絶対にしない」とは言い切れないと感じています。

ハードウェア/ソフトウェアに関わらず、エンジニアの一番の仕事は、問題解決にあります。コストやサイズや開発期間などの制約がある中で最大限の性能を引き出すのがエンジニアの役割です。

このケースは、「排ガス規制」「コスト」という制約がある中で、「燃費」と「馬力」を上げなければならないという課題を与えられたエンジニアが、

苦肉の策として「排ガス検査の時だけ(馬力や燃費を落として)排ガスを減らす」というソフトウェアを作ったことが問題になっていますが、

上から与えられた制約が「排ガスを減らすこと」ではなく「排ガス検査に通すこと」である限りは、この手のソフトウェアを作ることこそがエンジニアの仕事であり、必ずしもモラルの問題だとは言い難い面があるのです。

中島氏自身も遭遇した「似たケース」とは?

私も似たようなケースに遭遇したことがあります。まだ掛け算や割り算をソフトウェアで計算しなければならなかった8ビットパソコンの時代、

最も早い掛け算プログラム」を作る競争をしていた際、速度を測定するベンチマーク・プログラムに合わせて掛け算プログラムを最適化して勝利したことがあるのです。

この場合、実際のゴールは「ベンチマーク・プログラムを走らせた時に最高の性能が出る」ことがゴールだったので、それに向けて掛け算プログラムを最適化することには何の問題もなかったし、罪悪感も感じませんでした

フォルクスワーゲンのソフトウェアも、「排ガスを減らすと馬力や燃費が悪くなる」というジレンマを抱えたエンジニアに対し、経営陣から「馬力燃費落とさず排ガス規制基準クリアする車を作れ」というプレッシャーがかかり続けたのだと思います。

その結果、最初は「排ガス検査中には起こらないような急加速や高負荷の際には、馬力優先モードにする」程度のソフトウェアを組み込んだのだと思います。

ここまでならば、担当者でもしたでしょうし、実際、フォルクスワーゲン社以外のディーゼル車のソフトウェアにもそんな仕組みは入っていると思います。

燃費の方はもっと複雑ですが、同じように、燃費を測定する時に使われる走行パターンでは燃費を最優先に、

排ガス検査で使われるパターンでは排ガス抑制を最優先にするソフトウェアを書くのは、そんな立場に置かれたエンジニアであれば当然だと私は思います。

そんな「エンジニアとして当然」の仕事を繰り返している間に、フォルクスワーゲンのディーゼル車は、通常走行の際には検査中の10倍から40倍の排ガスを出す設計になってしまったのですが、

どの時点で「エンジニアとして当然の仕事」が「消費者の期待を裏切る不正行為」になってしまったのかの線引き非常に難しいと思います。

過去に似たソフトウェアを組み込んでいた日本メーカーとは?

報道されているように「排ガス検査されていることを検知して、その時だけ排ガス除去装置を作動出せるソフトウェア」と書いてしまえば明らかに不正行為ですが、

「馬力が必要な時には馬力優先モード、一般的な市街地走行パターンでは燃費優先モードでエンジンを動かすソフトウェア」であれば何の問題もないわけで、

そんな努力を重ねているうちに、どこかで「通常走行中には、排ガス除去装置停止する」という踏み越えてはいけない線を超えてしまったのだと思います。

実際、2011年にはいすゞ自動車も同じようなソフトウェアを組み込んでいたことを東京都に指摘されて警告を受けており(参照:最新排出ガス規制適合車における、排出ガス低減性能の「無効化機能」について)、

さらにそこで引用されている資料(参照:「無効化機能(Defeat Device)」について)を読むと、1998年にはフォード社が、

1999年にはキャタピラ社全く同じ問題で罰金を払わされており、程度の差はあれどの会社も似たようなことをしていたことは否定できないと思います。

ちなみに、この問題は、West Virginia Universityの研究者が、ディーゼル車が実際の走行でどのくらい排ガスを出すのかを測定した結果を論文として発表し、

そこに明らかな「排ガス低減装置の無効化」が行なわれている証拠が存在したからです(参照:In-Use Emissions Testing of Light-Duty Diesel Vehicles in the United States)。

エンジニアが良かれと思ってやったことが一線を越してしまい、それが会社の存続の危機まで招いてしまったという、極端な例です。

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