小説家志望という長い道のりを選んだその瞬間から、私の旅が始まった。時にはつまずき、二度と立ち上がれないと思ったことも―。

子どもにまつわるエピソードと聞いて真っ先に浮かんだのは、以前、長女が私に語った一言でした。しかしながら、この話は到底、聞いて頂くには恥ずかしい思いが強く、かなり迷いもありました。ただ、今も私が「夢」を目指して歩いてゆけるのは、このときの娘の言葉があったからなのです。

私が初めての単行本を出したのは20代後半、今から20年前になります。筆歴だけは長くなりましたが、欲目に見ても、いまだにアマチュアとプロの境目にいるアマチュア作家です。小説を書いている時間がいちばん幸せという私ですが、プロを目指すという夢ゆえに挫折を味わい、傷つき悩みんだことも当然ながら幾度もありました。ただ、女優さんのオーディションと同じで、こういうものは落ち込んでいてはキリがないのも事実です。なので、下手な鉄砲も数打てば当たる式で、公募の文学賞に応募している中には何度かはささやかな成果を得たこともありました。

それでもなお、二度ともう立ち上がれないと思うほどの大きな打撃を受けたこともあったのです。それは受賞したとか云々の話ではなく、アマチュアゆえに他人から投げつけられた心ない言葉や仕打ちが原因であったこともありました。ここまで書き続けてこられたのは、やはり下手なりに書くことが好きであったからだと思います。

そんな自分に悶々としていたある日、中学生の娘がくれた一言。

ある日、娘が私にこんなことを言い出しました。今は高校3年の長女が当時、中学二年のときのことです。中学校の社会科の授業の一環として「職業調べ」があり、家族・知り合いの職業について興味がある仕事内容を調べてきなさいとのことでした。リポートは、調べる対象の人にインタビューしてまとめるというもの。娘は「ママを取材することにした」と言います。最初、私は本業の寺の仕事の方かと思ったほどだったのですが―。

「ママの仕事は小説家でしょ」。意外な言葉に私は―。

何と娘は「ママの仕事っていえば、小説家じゃない。だから、小説家の仕事について聞かせて」と、きっぱり言うのです。これには驚き、「私はプロじゃないし、小説家なんて言えるような、たいしたものではないから」と当然ながら辞退しました。でも、娘は後に引きません。「もう先生に小説家について調べるって申告したから、駄目」と言われ、仕方なく応じることなりました。その仕事につくためには、どんな勉強をすれば良いのか、とか、今、その仕事をしていて、どんな気持ちか、とか。娘も一生懸命に訊くので、私も答えられる範囲で精一杯答えました。

大勢の保護者の前で、「私の母の仕事は小説家です」と発表した娘。

娘はリポートを提出し、それで終わりだと思っていたら、何と帰宅して「私が私の班代表で参観日に発表することになったから」と言うではありませんか。流石にそれだけ恥ずかしいから止めて欲しいと思いましたが、もう決まったことで今更、他の人に代わって貰うわけにはいかないとのこと。仕方ないと諦めるしかありませんでした。

「絶対に見にきてよ、ママ」、娘との約束もあるので、気が進まないながらも参観日に行きました。順番に班ごとに発表が進み、いよいよ、娘のグループが発表する番になりました。娘は大きな声で「私の母の仕事は小説家です。なので、私は小説家の仕事について発表します」。たくさんの父兄がおられました。私は恥ずかしさに顔から火が出るようで、発表が終わってもしばらく顔が上げられませんでした。しかし、信じられないことが起こりました。

暖かい拍手と笑顔に思わず涙した母

保護者の皆さんがどのように感じられたのか、不安でした。パチパチと最初は遠慮がちな拍手が起こり、更にそれが大きくなりました。漸く顔を上げた私の眼に映じたのは、たくさんのお母さんお父さんの笑顔、割れんばかりの拍手でした。

そのときの気持ちを今でも私は忘れません。長女は普段は大人しい弟とは異なり、母の私にも反抗的なことが多いのです。その娘が私の「夢」を応援してくれているだけでなく、「仕事」だと認めている―、信じられない想いと歓びで涙が出てしまいました。しかも、大勢のお友達やそのご両親の前で堂々と宣言した、その事実が何より嬉しかったのです。後から聞いた話ですが、娘は放課後も学校に残り、その日の発表の準備を張り切ってしていたそうです。その話を後日、担任の先生から聞かせて頂きました。

誰が認めてくれなくても、我が子が認めてくれる。それが何よりの励み

あれから四年経ち、娘は高校生になり、来年には大学生になります。私自身の執筆活動にも更に紆余曲折があったものの、挫折しそうになったときには娘のあの一言が私の背を押してくれます。何より、我が子の信頼に恥じることのない「仕事」をしたい、その思いが一つ一つの作品に真摯に向き合っていかせてくれるのだと思います。

皆様、おはようございます。
 
 私ごとですが、良かったら、聞いてくださいね。
 
 本日、私、表彰式に出席して参ります。

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フリーライター。ウェブ小説を書いています。2013年、「歴史浪漫文学賞」において最終選考通過。入賞候補作品「雪中花~とりかえばや異聞」書籍化。洋の東西を問わず、歴史が大好き。自称【歴女】です。韓流時代劇に夢中。そのほかにも美容・天然石アクセサリー作りなどに興味があります。
ブログのURL http://ameblo.jp/megumi3777/

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