2014年に、携帯電話などの移動体通信の普及率は138.5%に達しました。

2012年に、100%の普及率を迎えてからも、その普及率の伸びは衰えるどころか、急激に伸び続けているのです。

また、2008年から本格的な販売が開始されたスマートフォンでさへ、たった6年間で国内普及率36.9%を達成しています。

この数字だけを見ると、好きな時に、好きな人と直接繋がれる様になり、世界から孤独が無くなった様に感じますが、果たして本当にそうなのでしょうか?

まだ、この世に携帯電話が一般に普及していなかった頃…

そう、今から30年近くもむかし、私が本格的にデザインの勉強を始めた18歳の頃のお話なのです。実家での夕食が終わり、家族がくつろぎ始める時間を見計らって、私は友達に連絡をしました。

次回の作品展についての打ち合わせだったのですが、電話に出たのは友人のお父さんだったのです。

しかし、電話に出た友人のお父さんは、明らかに酔っ払っており、ろれつがまわっておらず、ほとんど何を言っているのかさへ分かりませんでした。

数分のやりとり後に、やっと友人が電話口に出たのですが、その時には私自身も可笑しくて笑っていたのです。

「ハッハッハッハッ!!(笑)お前のオヤジさん酔っ払い過ぎやろう?何を言ってるか、さっぱり分からなかったわ。まだ夜の8時やで。(笑)」

すると友人は、私のセリフを最後まで聞かずに、ガチャリと一方的に電話を切ってしまったのです。

多少面食らいはしましたが、ベロベロに酔っ払っていた父親を恥じたのだと思い、その時
は何も考えずに「まあ、明日も学校で会うから、直接打ち合わせすれば良いか…」としか思いませんでした。

ところが、その友人は学校の入口ホールで「おはよう」と挨拶する私の胸倉を、いきなりワシ掴みにして来たのです。

状況が把握出来ない私は、呆気に取らて友人を見つめていたのですが、友人は目にいっぱいの涙をためて、私の胸倉を握り締めながらこう言いました。

「自分の事を笑われるのは良いけど、俺の親父をバカにするな!!」

「バカになんかしてないやろ!!ただ、お前の親父がまだ早いうちから酔っ払ってるから…」

すると友人は、悲しそうな目を向けて、きっぱりとこう言ったのです。

「親父は酔っ払ってない!!半年前に脳梗塞で倒れた後遺症で、上手く喋られへんだけや!!親父…息子の友達に笑われたって、泣いてたんやぞ!!」

私は、その場に凍りつきました。

「親父は、働かれへん様になって、介護する母親とか俺らに、毎日のように謝って、死にたい、死にたいって言いながらも、日常生活を普通に過ごせる様にって頑張ってるんや!!そんな親父をバカにするな!!親父に謝れ!!」

そう言われた私は、生まれて始めて土下座をしました。

自分の愚かさを恥じ、友人の大切な父親を辱めた事を心から悔いていたからです。
私が人に土下座をしたのは、後にも先にもこの一回だけでした。

それから7年後、私が25歳になった年に、友人の優しい父親は亡くなってしまったのです。

大好きだった父親のお通夜で、友人は笑っていました。

この7年間の介護で、色々な事が有ったにも関わらず、喪主である彼は、弔問客に気を遣って無理に笑顔を作っていたのです。

そんな彼を見て、お焼香を終えた私は真っ直ぐに彼のもとに歩いて行って、その大きな身体をがっしりと両腕に抱きしめました。

そして、私は再び彼に謝罪したのです。

「知らなかったとはいえ、ガキの頃、お前の親父をバカにして本当に悪かった。ゴメンな。」

「アホなこと言うな。あれは、生活の苦しかった俺が、お前に八つ当たりしただけや。それでも、あの時お前が受け止めてくれたから本当に救われたわ。ありがとう。」

そう言った彼は、嗚咽を絞り出す様に、静かに泣き始めたのです。

携帯電話の無かった時代、私達の世代はすれ違う事も多かったのですが、気軽に話せないぶん、相手を深く想う事が出来たのだと思っています。

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