記事提供:長谷川豊 公式ブログ

この仕事をしていると、本当に信じられないことが何年かに一度起きます。

先日もそうでした。毎週、呼んでいただいている上沼恵美子さんと高田純次さんの人気番組「上沼・高田のクギズケ!」に出演した際のこと。

観客を入れての収録をしている番組なので、毎回、お客さんたちを温める役として「前説(まえせつ)」をしてくださる若手芸人さんがいるんですが、その中のお一人が、私の楽屋を訪ねてきてくださったんです。

「初めまして!本日の前説を担当します、○○と申します!」

まだ若い、とても爽やかな芸人さんでした。でも、その芸人さんが何故か、少しだけ、目に涙を浮かべているのです。なんだ?少し様子が変だけれど…。

「長谷川さん、僕…長谷川さんにお礼を言いたいことがあって…」

「へ?」

収録が始まる30分ほど前のことでした。

亡くなられた今井雅之さんの「お別れの会」が開かれたのは7月のある木曜日のことでした。

亡くなる直前まで、僕たちの番組にレギュラーゲストとして参加してくださっていた今井雅之さん。もちろん、私もお別れの会に参加する予定でした。しかし、直前になって、ニュースキャスターを務めるテレビ大阪から取材要請が来ました。

「長谷川さん、ぜひ行っていただきたい取材があるんです!」

通常であれば、もちろんお別れの会を優先させる私ですが、何かこの時は「取材を優先しよう!」と強く感じました。今井さんがもし生きてらっしゃったら、彼の性格を考えれば

「あほう!俺のことなんかほっといて、仕事、優先せんかい!」

と怒られそうな気がしたのもありました。私は今井さんの事務所の方に断りを入れて、香典などのアシスタントを務めてくれている阿部哲子アナに託し、大阪に飛びました。

取材内容はひどい暴走運転による事故の裁判でした。

大阪には「アメリカ村」と呼ばれる若者が集う人気スポットがあります。みんなはそこを「アメ村」と呼んでいます。その「アメ村」で、悲惨な事故が起きたのは5月11日のことでした。

犠牲となったのは看護師をしていた河本恵果(けいか)さん。とても可愛らしい、明るい人気者でした。

お母さんと同じ看護師の道を志し、仲の良いお友達と一緒にルームシェアをしていました。フィアンセもおり、まもなく結婚を控えている、とても幸せな時でした。

そんな河本さんに、暴走した車が突っ込んで行きました。5月11日。時刻は午前3時45分。

これが事故現場の写真です。河本さんは即死でした。輝かしい未来も、友人との楽しみも、何より、結婚も、すべてが一瞬で奪われました。

車を運転していたのは美容師をしていた白坂愛里(しらさかあいり)被告(25)。

お店でビールをジョッキで4杯飲み、さらに、カクテルを飲みながら、アクセルを踏み込んだのです。

無茶苦茶な事故でした。お母様も、一緒に住んでいたご友人も、あまりの悲劇にご自身の感情を見失いそうになったそうです。

警察は当然、白坂被告を「危険運転致死傷罪」の容疑で送検。そして

信じられない展開が待っていたのです。

1つだけ解説しておきます。自動車事故の罪は、大きく分けると、2種類だと思っておいてください(去年、その中間の罪状も増えているので正確には3種類ですが)。まずは

「過失(かしつ)運転致死傷罪」。

つまり「あなたは悪気はなかったけれど、『ミス』によって人を死なせてしまいましたよ」という罪です。あくまで『ミス』です。なので、最高でも7年の求刑までしかできません。

しかし、人を死なせておいて、実際には7年の刑が下されることなど、ほとんどありませんでした。いくら何でも、人の命が軽いのではないか!という指摘が相次ぎ、新たな刑罰が追加されたのが2001年のことでした。

「危険(きけん)運転致死傷罪」。

飲酒や薬物で正常な運転が困難と判断されるにもかかわらず、それでも運転して人を死なせた場合など、事実上の「殺人ですよ」という罪だと思ってください。懲役は20年まで求刑できます。

今回は、あまりに飲酒の量が多いですし、どう考えても、正常な運転などできません。と、言うか、運転席でカクテルを飲みながらハンドルを握っているところを白坂被告の同乗者に確認されています。完全な「危険運転致死傷罪」の対象事案です。ところが…

検察は、ご遺族に何の断りもなく…

「過失運転致死傷罪」

で立件してしまったのです!!

ご遺族やご友人は、最初、検察官が何を言っているのか分からなかったそうです。当たり前です。こういう事案のために「危険運転致死傷罪」という罪が作られたのです。

もちろん、過失と違って、立証も難しくなります。「運転困難な状況であった」など、証明しなければいけない項目が多岐にわたります。

しかし、常識的に考えて、ビールを中ジョッキで4杯飲んだ後にカクテルを飲みながら車を発進させているのです。これが危険運転でなければ、一体何に当たるのでしょう?理由としては

「(白坂被告が)『ブレーキとアクセルを踏み間違えた』(つまり、意識は正常だったけれど単純なミスだった)と供述している」

ということが主だった理由だそうです。そんなバカな。お母様も、ご友人も、あまりの理不尽さに2度傷つけられたと言います。

私は、そんな裁判の、第1回法廷を取材しました。そして、あぁ、そういうことかとすぐに納得しました。

もう一つ解説しておきます。皆さんは弁護士さんや検察など、戦っている相手や裁いてる裁判官、どうやってその職業になってるか知っていますか?

え?別々に勉強して試験を受けるって?

違います。実は「司法試験って一種類」なんです。司法試験をみんなで懸命に勉強して、みんなで試験に挑みます。で、受かった人は

「俺、検察官になる!」
「僕は弁護士だな!」
「私は裁判官で!」

と言えば、実は、そのまま(研修などを受けてから)なれちゃうもんなんです。実は、裁判所で戦っているように見えるかもしれないですが、あの3種類の人たちって…もともと…

おんなじ勉強をしてきた「お仲間」なんです。

法廷で、すぐに分かりました。若い、ヘアースタイルに妙に気を使っている様子の検察官くん。そしてほとんど彼と同級生だろうと思われる弁護士くん。その若手を見守るような、いかにもやる気の全くなさそうな裁判官さん。

完全にナァナァの空気感です。

皆さんは信じられないでしょうが、実は何十回も裁判の取材をしていると、残念な話ですが、そういった被害者無視の、ナァナァな裁判って、意外に結構あったりするんです。

弁護士は被告の親身になってなんかない。検察官は被害者の味方になんて全然なってない。要は、さっさと面倒な裁判を終わらせて、自分たちのキャリアを積むことしか考えていない、ふざけた法曹関係者も、残念な話ですが、少数ですが、いるにはいるのです。

確認のため、私の知り合いの弁護士や検察の方に今回の事例について、資料を見せて話を聞きました。「自分自身が関わっていないので、あくまで客観的な話だけれど…」ということでしたが、3人の方が皆、

「通常であれば、危険運転の適用範囲であると想定される」

との見解でした。

しかし、ただの『ミス』である「過失運転」での立件と、事実上の「殺人」である「危険運転」での立件は手間も何もかもが全然違います。また、上手く立件できなければ、彼らの

「輝かしいキャリアの汚点」

になる可能性もあります。私は、すぐに、小樽の事例を思い出しました。

去年の8月、北海道の小樽市で、飲酒した上、携帯電話をいじりながら車を運転し、人をはねて死なせた事例がありました。

その時も同じで、警察は「危険運転」で送検したにもかかわらず、検察の一方的な判断で「過失運転」での立件となったことがあり多少ニュースになったのですが、最近、そのような検察や弁護側の「手抜き」事例が散見される気がしています。

その小樽の件に関しては、「あまりに不当!」と憤りの声が上がり、大量の署名が集まるにつけ、裁判所も黙殺できなくなったため、最終的には「危険運転致死傷罪」での立件となりました。

正常な人々の声に、裁判所が適当な「手抜き裁判」を出来なくなった好例と言えるでしょう。

私は取材を終えて、テレビ大阪に帰り、原稿を練りました。

テレビ大阪の報道キャスターとして、私は自由な1分間を与えられており、「長谷川持論(はせがわじろん)」として好きにしゃべるコーナーがあるのですが、当然、その日は取材から見えた「手抜き裁判」について、怒りを述べました。

検察が本気になって被害者の立場に立たなければ、一体、誰が報われるのか、と。

それから、わずか2週間でした。読売テレビの楽屋に、前説を担当してくれた若手お笑い芸人さんがご挨拶に来てくれました。

「初めまして!本日の前説を担当します、○○と申します!」

まだ若い、とても爽やかな芸人さんでした。でも、その芸人さんが何故か、少しだけ、目に涙を浮かべているのです。なんだ?少し様子が変だけれど…。

「長谷川さん、僕…長谷川さんにお礼を言いたいことがあって…」

「へ?」

「長谷川さん、ケイカについて、あそこまではっきりと検察を批判してくださったのは、長谷川さんだけでした。本当にありがとうございました。僕…」

「え?話が見えないんですが…?」

「僕が、ケイカの、被害者の婚約者です」

この仕事をしていると、本当に信じられないことが何年かに一度起きます。

事故で亡くなった河本恵果さんは、まだ若手のこのお笑い芸人さんを、応援していました。二人は恋に落ち、結婚の約束をしました。しかし、結婚式を挙げられることなく、二人の幸せは最悪の事故で引き裂かれました。

彼は、お笑い芸人という仕事を続けられるか、悩んだ時もあったそうです。事故の数日後にも、仕事が入っていました。さすがに精神的にも厳しく、仕事を休もうとしたとき、恵果さんと同じ、看護師をしている恵果さんのお母様に言われたそうです。

「恵果が好きだったのはお笑い芸人として、人を笑わせているあなただ!」

事故の数日後、彼は悲しみに負けずに舞台に立っていたのだそうです。きつかったでしょうが、それでも、テレビ番組の前説の仕事も見事にこなしていました。立派な姿を見て、私も涙が出そうになりました。

現在、あまりの理不尽な今回の河本恵果さんの裁判に、全国から怒りの声が集まり、なんと13万人を超える署名が集まっているそうです。

当然です。これが危険運転でなければ、2001年の法改正はいったい何だったのかということになる。恵果さんはもう帰ってこないのであれば、残された私たちの務めは、

酒を飲んだり、携帯をいじったり、ナメタ運転をして人を死なせた場合、大変な厳罰が下るぞ!

ということを全国に伝えることだと思っています。そして、未来の被害者を一人でも多く減らすことです。

共に住んでいた仲良しのご友人も、大変な重傷を負いましたが、今は署名活動のお手伝いなどをされています。

今はまだ、「過失運転」のままでの裁判が続いています。こんなバカなことはありません。関西を中心に、少しでもこの事例が、大きく報じられることを祈ってやみません。

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