「初めて夫を叩いたのは、お金のことでの喧嘩でした。」イギリスに住むフローレンス・テリーは、過去に夫に暴力を振っていたことを明かした。「私に内緒で、ローンの返済を一括でしてしまい、口座がマイナスになってたんです。」

何の相談もしてもらえなかったこと、話をしたいと思ったのに部屋を出ていたれたことでフローレンスは自分自身のコントロールを失った。

10年続いた夫へのDV

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「部屋を出て行った夫の後を追って行って、次の瞬間、夫の頭を殴ったんです。」夫は怒りフローレンスは泣いた。自分がしたことに恐怖を感じ、同時に自分を恥じた。手を出してしまったことを夫にすぐ謝った。そして1回だけだと自分でも思っていたのに、夫への暴力は10年間続いてしまった。

ダラム大学で、共通の友人を通して知り合ったフローレンスとベン(仮名)。「私は19歳で夫は24歳でした。」5歳差のベンがフローレンスには大人に見えた。とても面白くて、よくフローレンスを笑わせてくれた。5年後に二人は結婚した。

ベンはIT関係の仕事をし、フローレンスは離婚専門弁護士の仕事をしていた。最初の結婚生活は順調だったが、やがてフローレンスの仕事のへ責任感がストレスになりベンに八つ当たりするようになった。

1年半後に、また夫に手をあげた

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1度きりだと思っていたのに、1年半後、フローレンスはまたベンを叩いてしまった。コントロールできない怒りが波のように押し寄せて、それは喧嘩の間にどんどんエスカレートした。自分の心が身体を抜けてどこかで夫を殴っている自分を見ていて「止めろ!」と言ってるにも関わらず、できない自分がいた。

激しく夫を殴った。傷つけてやろうと思った。ある時はテーブルを持ち上げ、床に振り下ろした。床が固かったためにテーブルが壊れた。子供の兄妹喧嘩のように、夫の腕に跡が残るほど噛んだりもした。

フローレンスがどんなに激しく暴力をふるっても、ベンは決して手をあげなかった。その代わり防御の姿勢を取って両手を出し、フローレンスの攻撃をかわそうとした。しかしその行為がフローレンスの怒りに火をつけ、ますます攻撃的になった。

自分自身が全くわからなくなった

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フローレンスはとても小柄で華奢な体格だった。それに反しベンは大柄だった。手をあげれば確実に男の方が強いことを知っているためにベンは耐えた。フローレンスを愛していたからだ。

「ベンからすれば、自分が愛している人が故意に自分を傷つけようとしているのを知ってショックだったと思います。でも一度も離婚をほのめかしたり、出て行くってことを言わなかったんです。」

ベンはこんなことぐらいで、二人の絆が壊れるほど弱い夫婦ではないと信じていた。ベンははるかに器の許容量が大きかったのだ。フローレンスは、自分でも何故、愛している夫に凶暴になるのかわからなかった。

フローレンスが爆発する度に、ベンはなだめ、落ち着かせようとした。その態度が余計にフローレンスをイライラさせ、凶暴な態度でベンの反応を伺おうとした。口汚く罵りもした。返事を強要し、厭味ったらしく攻撃をした。そんなフローレンスの態度は明らかに二人の間の「愛」を腐食させた。

やがて気付いた自分の姿

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フローレンスは中流家庭に育ち、両親の愛にも恵まれて育った。裕福な家庭だったため私立の学校にも行った。大人になれば社会に貢献するのが当たり前だという観念があった。だから弁護士という仕事で人の役にたち、チャリティのためのボランティアにも励んだ。

スープキッチンでホームレスのために世話をした。そして市民アドバイスセンターでもボランティアとして働いた。人生をいつも忙しく、ぎゅうぎゅう詰めの時間を過ごしていた。

「自分はスーパーウーマンにならなきゃいけない、って思っていたんです。だから夫もスーパーマンになるべきだ、と。」フローレンスの怒りは、自分のそういったプレッシャーへのストレスと自尊心の低さが原因だと気付いた。

「周りの人達は、私のことを穏やかで落ちついてるって言いました。でも内側はそういう怒りやストレスが鬱積していて、自分を恥じていたんです。」

怒りをコントロールするコースに参加してみた

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「このままではいけない。自分のためにも、変わらなければ。」そう思ったフローレンスはDVグループのことを聞いた。調べてみたが、男性によるDVのグループで参加するべき被害者はむしろベンの方だった。

なんだか情けなくなった。「ボランティアをしているような、しかも弁護士という職業でもある自分がDVをしているなんて、恥辱以外のなにものでもない、って思いました。」

そして、インターネットで怒り抑制コースを見つけ、参加してみた。最初は緊張したが、自分の人生に向き合わなければと思い、コースに参加し続けたフローレンス。そしてコースが終了に近づき、「大丈夫。私はもう怒りをコントロールできる。」そう思った。

しかし、2年後また暴力を振ってしまった

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「もう自分の怒りをコントロールできる。自分は変わった。」そう思っていたのは単なる独りよがりだった。フローレンスは2年後、またもベンに手をあげた。ベンの顔を引っ叩いた時、自分の弱さに直面する為にも家族や友人にその出来事を正直に打ち明けた。

彼らは、フローレンスを一切批判しなかった。それが彼女の大きな救いとなったのだ。以来、毎日フルタイムで多忙だった弁護士の仕事を、パートの勤務時間に変えた。そして、自分自身のためにも、怒りと衝突を抱えている人達を助けるためのコースを開いているという。

今でも夫ベンとは結婚生活を続けている

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「随分、穏やかな関係になりました。」フローレンスは言う。「結婚生活は完璧ではないけど、順調にいってます。」攻撃的な言葉を使わないように、極力心がけているというフローレンス。そして怒りが爆発しそうになった時には部屋を出て行くようにしているという。

「感情をコントロールできるようになって、随分マシになったと思っています。」DVはいつも男性が加害者とは限らない。フローレンスのように、女性でも十分加害者になり得る。言葉の暴力だけでも立派なDVだ。

ただ、筆者がすごいと思うのはベンが10年もフローレンスに耐えたことだ。夫の妻に対する揺るぎない愛が、ベンの信念を強く保ったのだろう。自分は決して手をあげなかったことも素晴らしいと思う。そしてフローレンスと共に乗り越え、未だに結婚生活を続けているというのは、なかなかできることではない。

夫ベンの大きな心と忍耐力にきっとフローレンスも気付いただろうと思う。これからも二人で幸せな家庭を築いてほしい。

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公式プラチナライター。イギリス在住22年目。いつも読んで下さる皆さんに感謝。Twitterアカウントは@mayonesque18です。よろしくお願いします。

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