動物実験という言葉を聞いてあなたはまず、何を思い浮かべるだろうか。自由もなく、檻に閉じ込められている動物の姿?犬猫達の悲しそうな表情?虐待されているウサギの姿?それとも虐待している人間の姿?恐らく殆どの人が、「動物が大好き!」でなくても「動物実験」という響きにいい印象を抱かないだろう。

確かに、それは実験だ。ほとんどの動物実験は人間の治療薬のため、人の命を救うことになるかも知れない薬を作るために行われている。それに対し「人間の身勝手だ、動物虐待だ」と声を荒げる人もたくさんいるのは事実だ。

この、動物実験ラボで働いていた女性の体験談が、あるイギリスの新聞社に寄せられた。筆者はこれまで、動物実験ラボスタッフの話を聞いたことがなったので大変興味深く記事を読んだ。この記事を読んだあなたは、どう感じるだろうか。

「ベジタリアンの自分が動物実験ラボで働くことになるなんて」

出典 http://www.theguardian.com

小さい頃から両親の影響で、ベジタリアンだったというレイチェル(仮名)。両親は動物が農場で食べられるために繁殖され、殺されるのに我慢ならなかった。そんな両親の意思を受け継いだレイチェルも動物を愛する少女に育った。

大学でパートナーに出会った。卒業後、彼は毒物学者として薬の研究をする仕事についた。人間の治療薬のための薬をテストする、いわば治験ドラッグの研究をしていた。レイチェルはパートナーの仕事に興味を持った。

彼が仕事内容を話せば話すほど、自分もやってみたいと興味をそそられた。彼は内務省から特別に許可を得ている動物実験にも参加をしていた。

空きが出た動物実験の仕事に応募した

出典 http://www.gettyimages.co.jp

面接では、レイチェルが動物愛護団体に加入していないかの確認があった。ラボで実際に働いているスタッフ以外は、正直、その実態の詳細は知らない。人はみな、動物が狭くて暗いところに閉じ込められ、虐待され惨めな痛々しい姿で瀕死状態というイメージを動物実験に抱いている。

それもそうだろう。動物愛護団体はいかに動物実験が残酷極まりない人間の身勝手から来ているかを説いているのだ。彼らはラボで働くスタッフの車にこそ、ブロックを投げつけたりはしないが、工場の前で待ち伏せし、あるとあらゆる侮辱と暴言を日々吐いているのだ。

レイチェルも、自分がラボで働くようになるまではそんなイメージしかなかった。毎日毎日、動物愛護団体に所属し、こうしてハラスメントともつかぬ抗議をする人達は、自分たちがいかにも真っ当なことをしていて、研究に携わっているスタッフがいかに人として最低かを言葉でもって攻撃する。

「人殺しと一緒だ!」「残酷!」「最低!」時には動物愛護スタッフによって、ラボに勤めているスタッフの住所を突き止められたりして、個人的に家に嫌がらせをされることもある。いくら仕事と言っても理解もしてもらえない。動物愛護団体スタッフにとっては、動物実験をしているスタッフは全員「悪」の塊なのだ。

ラボは、レイチェルの想像とは違っていた

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暗く、狭い「虐待のための場」というイメージは払しょくされた。職員になり、施設を見学したレイチェルは、犬猫やウサギ、ネズミなどのいる部屋を見ることができた。ネズミやウサギなどの小動物は犬猫とは別の部屋に置かれており、どの動物もレイチェルの顔を見てキラキラした表情を見せた。

犬を外で散歩させることは、実験のルール上禁止されていた。だが、施設には十分遊ばせられる場所やおもちゃなどがあった。スタッフの1人がレイチェルに「ここで行われていることは、十分正しい理由があって、正しいことなんですよ。」と言った。

数年後、パートナーの部署へ配属

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その後、レイチェルはパートナーの部署で科学者たちのアシスタントを務めた。が、ほとんどは普通のオフィスワークと同じ資料整理だった。親しい友人たちには自分がしてきた仕事内容を話した。

最初は話すことに抵抗もあったし、話しているうちに自己防衛的な感覚になって、相手の意見に憤ることもあったが、今ではリラックスして話せるようになった。

実験内容を知らない人達は、動物実験ラボでの仕事というと、顔をしかめてどんな動物が犠牲になっているのか知りたがる。そして今でも、ウサギの目に香水やシャンプーを噴射したりして実験していると思っている人も多い。

レイチェルがラボで仕事をしていた時には、パートナーの職業共々、人に話す時には注意を要した。別に「秘密の仕事」というわけでもないが、ほとんどのスタッフは自己防衛のために秘密にしておくことが多かった。

たまたま仕事の話になっても、ぼんやりとごまかした。嘘をつくのは良くないが詳細を話すのは控えた。直属の上司も、スタッフのプライバシーの保護に協力してくれた。車のナンバープレートも、動物愛護団体の抗議者達による執拗な追跡ができないように、個人の住所とは別の住所で登録することを許された。

「仕事内容よりも外に出る方が怖かった」

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自分が実験ラボで仕事をしているというだけで、動物愛護団体の抗議者たちからまるでストーカーのように付きまとわれ、外を歩くことに恐怖を感じた時もあった。しかしレイチェルは、「自分は正しいことをしている」という信念を持ち続けた。

動物実験は、見方を変えるだけでその観念がガラリと変わる。しかし、動物をこよなく愛する団体の抗議者達には、実験をしている人達の言い分は通用しない。ただ、彼らスタッフが日々、実験をしているからこそ新薬の開発があり、人間の治療に生かされ、命が救われるというのもまた事実なのだ。

肉食動物は生きるために草食動物を食べる。可哀相と思う人も多いだろう。しかし、草食動物が増え続ければ地球はバランスが取れなくなる。肉食動物にとっては草食動物を襲うのは必要なこと。とすると、人間も生きるために実験が必要だと考えるのは同じではないだろうかと思う。

魚や肉を食べている我々も、他の生き物の命を頂き命を繋いでいる。動物実験も我々人間にはなくてはならないものだと考えると、レイチェルのようにそこで働くスタッフも「正しいことをしている」という気持ちになるのは当然のことだと思える。

「私は自分の仕事に誇りを持ってやっていた」

出典 http://www.gettyimages.co.jp

暫くしてレイチェルは、家族の事情により職場を変わった。今は普通のオフィスで事務をしている。「もう、あの頃のように人に言うのを躊躇う仕事をしていないけど、でも、私は自分の仕事に誇りを持っていたわ。」

いつも仕事をする時は、内容がなんであれ充実した、満足できる仕事をしたいとレイチェルは言う。仕事の名前だけを聞いて想像するのは簡単だ。しかし、本当の内容はそこに勤めている人達にしかわからない。

動物実験のラボで働いているスタッフに対しても、むやみやたらに暴言を吐いたり顔をしかめたりするのではなく、まず、その仕事内容を理解することが大切ではないだろうか。動物を深く愛する気持ちはわかるが、動物愛護団体の異常を逸した抗議行動はいかがなものかと思う筆者である。

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公式プラチナライター。イギリス在住22年目。いつも読んで下さる皆さんに感謝。Twitterアカウントは@mayonesque18です。よろしくお願いします。

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