1995年7月30日。
東京八王子のスーパー「ナンペイ」で強盗殺人事件が勃発。アルバイトの女子高生ら3名の尊い命が犠牲になった。
彼女らは粘着テープで縛られたうえ射殺されたという。犯人につながる手がかりはその粘着テープに付着していた指紋の一部。これは犯人のものと見られていた。しかし、決定的な証拠とはならずそのままなんの進展もなく20年の長い月日が流れた――

そして、20年後――

2015年2月18日。
粘着テープの指紋が10年まえに死亡した日本人男性の指紋と似ているということが警視庁への取材でわかった。警視庁はその男が事件に関与した可能性があるとみて、当時の行動や交友関係を調べている――

ナンペイ事件「被害者」

うのたろうです。
うえの文章はぼくが書く小説の序文ではありません。
本当にあった現実の事件。

「ナンペイ事件」

といえば覚えている方も少なくないでしょう。1995年7月30日(土)に起きた強盗殺人事件です。

ナンペイ事件の概要は上記の通り。東京・八王子のスーパー「ナンペイ大和田店」の店舗離れにある2階事務所でアルバイト店員3人が閉店後に射殺されるという痛ましい事件です。殺害されたのは同店で働く従業員の3人――


稲垣則子さん
当時45歳。パート店員。

矢吹恵さん
当時17歳。私立桜美林高校2年生。アルバイト店員。

前田寛美さん
当時16歳。都立館高校2年。アルバイト店員。


稲垣則子さんはナンペイ大和田店のパート店員。矢吹さんと前田さんは中学時代からの友人で、おなじスーパー「ナンペイ大和田店」でアルバイトをしていました。

事件当日、出勤していたのは稲垣さん矢吹さんのみ。前田さんは非番でした。しかし彼女も運悪く現場に居合わせてしまいました。友人である矢吹さんを迎えにアルバイト先であるナンペイ大和田店にきていたからです。そして、そこで凄惨な事件は起きてしまいました。

ナンペイ事件「殺害~発覚」

彼女らを殺害するために使用された拳銃は回転式38口径のもの。米コルト社製かフィリピン製模造銃「スカイヤーズ・ビンガム・コマンチ」。これは割りとメジャーな銃で過去のいくつかの事件でも、この銃と線条痕がよく似た拳銃が使用されているようです。

事件の第1発見者は稲垣さんの知人Aさん
彼女は同日、稲垣さんから「迎えにきて」と電話で要請を受けていました。

ナンペイ大和田店の閉店時間は21時。それに対しAさんがナンペイ大和田店に到着したのが21時25分ころ。

Aさんは約束通り閉店したスーパーの外でしばらく待っていました。しかし、いつまでたっても友人の稲垣さんはでてきません。そこでAさんは一度その場を離れると知人の女性を誘い21時50分ころにふたたびナンペイ大和田店を訪れます。

しかし、その時間になっても状況は変わりません。やはり稲垣さんの姿はどこにもないのです。そこでAさんは考えます。「普段、従業員が着替えをおこなったりしている事務所に足を運ぼう」と。

その事務所は店舗部分とは直接つながっていない独立した箇所にあります。ナンペイの店舗部分の2階に乗っているある建物で外階段からはいる形になっています。事務所の鍵はかかるようになっていますが、施錠をされていないことも多く以前にも泥棒がはいったこともあるそうです。

ナンペイ事件「現場のようす」

出典 YouTube

そんな2階事務所にむかったAさんですが、事務所の扉をあけるとそこには変わり果てた友人と縛られ絶命しているふたりの女子高生の姿を発見するのです。

稲垣さんは部屋の隅の金庫にもたれた状態で死んでいました。撃ちこまれた銃弾は2発。腹部に刺し傷もありました。

部屋の中央には女子高生ふたりが背中あわせに座らされています。手と口を粘着テープで縛られた状態で。しかしそれだけではありません。彼女らも死んでいたのです。ふたりとも1発ずつ至近距離から頭を撃ち抜かれ殺害されていました。

また犯人は金庫にも1発、弾丸を撃っています。現場では計5発の銃弾が放たれたということです。おそらく犯人が金庫を撃った理由は、なかの現金が目的でしょう。金庫にはこじあけようとした跡がありましたが犯人にはあけられなかったようです。
もちろん、金庫は殺害された3名の従業員にもあけられなかったのでしょう。その証拠に鍵がささったままの状態でダイヤルには二重ロックがかけられていました。結果、金庫のなかには金、土、日の売上金500万円がそのままはいっていたそうです。

しかし、ここで疑問が残ります。
5発も発砲して、なぜ周囲の人は気付かなかったのか?

ナンペイ事件「当日の周囲のようす」

そのこたえは近所でおこなわれていた盆踊り大会でした。
この夜はスーパーの北西30mにある「北の原公園」で盆踊り大会がおこなわれていたのです。盆踊りの夜のようすを思いだしてみてください。太鼓の音や踊りの音楽。そして人々の発する声とざわめき。そんななか5発ぶんの銃声はいとも簡単にかき消されてしまいました。

たまたま近くを通りかかった人が銃声のような音を耳にしても「花火かな」くらいにしか思わなかったそうです。犯人の計算なのか、偶然なのか、いずれにしても最悪の条件が重なってしまいました。

また「ナンペイ大和田店」は小さなスーパーでした。そのため17時から店内にはレジ係の矢吹さんと稲垣さんの2名しかいなかったそうです。

そんななか犯人は閉店直後に事務所に押しいったのでしょう。そこでアルバイトを終えた矢吹さんとたまたまその場に居合わせてしまった前田さんをふたりまとめて縛った(縛らせた?)うえで稲垣さんを銃で脅し、金庫の鍵を奪い暗証番号をききだそうとしたというのが大方の見解です。

しかし、いくら犯人がききだそうとしても稲垣さんはもともと暗証番号を知りません。知らないものは教えようがありません。そこで犯人は金庫をあけることを断念。顔を見られたために彼女のことも殺害したのだろうという見方が有力です。

ナンペイ事件「証拠と容疑者」

当時、彼女らを縛りあげていた粘着テープに残っていた犯人のものとみられる指紋は不完全な状態でした。そのため手がかりにすらなりませんでした。

そのため現場周辺の目撃情報などから犯人の特定を試みました。また現場に残る25cm~26cmの運動靴の足跡などからも犯人の特定を試みました。

しかし、どちらも空振り。目撃情報はゼロではない(というより「白いチェイサーの目撃証言」や「当時近辺で多発していたスーパー強盗の中近東系外国人説」など多数ありました)ものの、どれも決定力に欠けて犯人特定には至りませんでした。
現場に残された靴跡も溶接作業時などに飛散する鉄粉が付着しているということはわかっていても(2008年発表)、靴自体が大量生産の全国的な流通品であるため購入者の特定などとてもできるわけがありません。

また容疑者として浮上した偽造パスポートで不法入国したカナダ在住の中国人も裁判によりシロではないかという可能性が濃厚になってしまい、捜査は完全に手詰まってしまいます。

そんななか2006年7月。
地元の「八王子防犯協会」は事件解決につながる有力情報の提供者に懸賞金300万円を贈ると発表。さらに八王子警察署は有力情報に懸賞金600万円を贈ると発表しましたが犯人への手がかりは見つからない状態でした。

しかし……

ナンペイ事件「新事実」

ときはたち2015年――

現代の最新技術を駆使して指紋鑑定をおこなったところ、個人を特定するために必要な12個の「特徴点」のうちの8つが「ある男」の指紋とほぼ一致したことがわかります。それにより事態は急変しました。

その指紋から浮上した「ある男」とはナンペイ事件があった当時、東京の多摩地域に住んでいた日本人の元会社員男性だといいます。しかも、この男性が周囲に「強盗でもやりませんか」と持ちかけていたこともその後の捜査関係者への取材でわかりました。

さらに男性の元同僚には暴力団関係者の存在もあるため拳銃の入手ルートなどにもつじつまがあってきます。もっといえばこの男性は、知人に「拳銃を預かってほしい」などと相談していたこともあるそうです。

この男性は生前、任意の聴取も受けていました。
しかし「事件当日はソフトボール大会にいっていた」というアリバイ証言をしているため、当時は犯人として疑われなかったそうです。

もっとも現時点では、これらはすべて点の事実です。たまたま指紋が似ていて、たまたま強盗をしようと周囲にもらし、たまたま元同僚が暴力団関係者だったというだけです。これだけではこの男性が「本当に拳銃を手にいれ、言葉の通りに強盗をおこなった」という証拠にはなりません。さらに指紋も「ほぼ」一致しているだけで決定力に欠けてしまいます。そのうえ、彼のアリバイ証言にもあるように事件発生時にこの男性は現場にいなかった可能性も高いとみられることも捜査関係者への取材で判明しています。

は、彼をふたたび聴取すればいいのではないか? ということになりますが、それは不可能なのです。なぜなら彼は今から10年まえ――2005年にすでに病気が原因で死亡しているのですから。彼の死亡時の年齢は60代でした。

まとめ

事件が起こった「ナンペイ大和田店」は1998年に閉店し、今は駐車場となっています。当時の痛みだけがその場に残り、景色は顔を変えてしまいました。

現場周辺では今日も車が走り人が歩く。
近所の高校生たちがスマートフォンを方手に歩道いっぱいに広がってはしゃぎまわり、顔を変えた現場に停めた車のなかでひっそりと誰にもバレないキスをする中年カップルもいることでしょう。

平和な景色は今日も明日もそこにあります。
しかしその場所では確実に3つの尊い命が奪われているのです。
なにもない穏やかさを意識せずにすべての人が生活することこそ、その場所が平和であるという証拠でもあります。しかし、この場所で過去に起こった事件の痛みは決して風化させてはなりません。

事件は過去だが、痛みは今も続いている――

そんな思いから八王子署捜査本部は、今回浮上した男性と事件との関わりについて慎重に調べを進めているようです。

犯人が見つかり、そして願わくば捕まり、本当の平和がその地におとずれることを切に願ってやみません。

もう二度と、こんなことが起こらないように。
うのたろうでした。

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