記事提供:Social Trend News

「これ、わたしのパンツじゃないんだけど…」

彼氏の浮気発覚という衝撃的な出だしで始まるラブコメ小説『SURVIVAL WEDDING(サバイバル・ウェディング)』。著者の大橋弘祐氏は、大手通信会社を30代半ばで退職。初となる小説作品を5年かけて粘りに粘って完成させ、発表した。

実は大橋氏は、『夢をかなえるゾウ』の著者である水野敬也氏が、若手を育てるプロジェクトとして、自身のアトリエで共同生活を始めた際の、最初のメンバー。

大橋氏はその後、水野氏に勧められる形で大手企業を辞め、水野氏の指導のもと、書き上げた本の出版にこぎつけ、同作はたちまち増刷がかかるヒット作になった。

そこで、同時期に同じメンバーとして暮らしていた、いわば大橋氏の後輩にあたる、ソーシャルトレンドニュース編集長の霜田が、直撃インタビュー。

30代半ばで大手企業を辞める決断や、小説執筆経験ゼロの状態から本を出すまでの努力などについて聞いた。

小説を読んだことがない男が5年粘って、小説を発表

――まずは、出版おめでとうございます!出版に至るまで、大橋さんがどれだけ努力してきたかは一応僕も見てきたつもりですが、改めてここまでの道のりを聞いていきたいと思います。

僕としては大橋さんの机の周りに大量の小説や『an・an』が積み重なっていたのが印象的です。

「実は、それまでほとんど小説というものを読んだことがなかった。だから、参考になりそうな、いわゆるエンタメ小説を読みまくった。

あとは、この作品は女性が主人公なので、女心を知ろうと思って、会社で廃棄されそうになっていたan・anを、持って帰ってきて読んだりしてた」

――大橋さんの作業机の周りが、ホントに婚活してるOLみたいになってましたよね(笑)。他に参考にしたものってありますか?

「ドラマとか映画は、参考にさせていただきました。特に参考になったのはロンバケ(※)だね。あのドラマは、設定とプロットが完璧で、もう20年近く前なのに全然古くならない。

僕の世代だとテレビドラマの影響力ってすごくて、放送された翌日の学校は、その話題で持ちきりだった。そういう時代に育ってきたから、ああいう誰もが楽しめるテレビドラマのように読める小説はできないかな、と考えて書いてたんだ」

(編集部注:『ロングバケーション』。1996年に放映された木村拓哉、山口智子主演のドラマ。実は木村拓哉の連続ドラマ初主演作。当時、一世を風靡した)

――『サバイバルウェディング』は単なる恋愛小説に留まらず、婚活に役立つテクニックも満載で実用的要素も入っています。そこは何か意図したところがあったんですか?

「それは、僕らは水野敬也に教わった水野チルドレンじゃないですか(笑)。水野さんにお世話になり始めたのは2010年のはじめだから、『夢をかなえるゾウ』が当たりまくってた時期なんで、

そこはもう、書くんならああいう自己啓発小説だな、っていうのは直感があった。その安易な考えが、完成までに5年もかかる苦労を招くことになるんだけど…(笑)」

(編集部注:『夢をかなえるゾウ』は2007年に発売。2008年にドラマ化、2009年にアニメ化される。自己啓発書でありながらエンターテイメント小説でもあるという新たな形式は、当時多くの類似作品を生んだ。

現在に至るまで売れ続け、文庫版も合わせて、累計200万部を超える)

――確かに、部下に恋愛のテクニックを教える上司という設定は、『夢をかなえるゾウ』のガネーシャを思わせますよね。

「最初は『ふんころがしはオスが持ってきたエサの量で交尾の時間を決める』みたいな生物学の例を出して、恋愛テクニックを説明する予定だったんだ(笑)。

でも、それだと女性が買わないだろうと思って、ヴィトンとかエルメスのブランドのマーケティングの例を出すように変えました」

会社の昼休みに昼食を抜いて執筆

――書き始めたのは2010年だったんですね…。

「当時32歳で、今は38歳だから、30代をほぼつぎ込んだよ…」

――期間の長さもさることながら、当時会社員だったっていうのがすごいですよね。会社帰りに20時頃水野アトリエにやってきて、かなり深夜まで書いてましたよね。

「そうだったね…。土日はもちろんだし、あとは会社の昼休みは毎日、書いてた。昼食食べちゃうと眠くなっちゃうから、エクセルシオールかスタバに行って、コーヒーだけ飲んで書いてたね。書いてない昼休みは、会社員時代はほとんどないんじゃないかな…」

――やっと本を出版できたわけですが、出版後に何か気持ちの変化はありましたか?

「本が完成して発売される前は、『自分が書いた文章が売れるのか』と不安でしょうがなかった。でも発売されて本屋に行ったときに、自分の本を立ち読みしてる人がいて、その人が笑ったときは、書いてよかったなと、ちょっと感動しました。

ただ、その人は結局、又吉さんの『火花』をレジに持っていきましたけど…」

他の女のパンツで浮気が発覚

――ちなみに、作品の中に大橋弘祐自身のエピソードは入ってるんですか?

「お恥ずかしい限りなのですが、冒頭の『これ、わたしのパンツじゃないんだけど…』で浮気が発覚する場面は実話で…」

――ええっ、あそこですか?

「僕の場合は当時つきあってるコが、浮気を防止しようと思ったのか、ウチにたくさん下着をおいていってたんですよ。それで、浮気相手がウチに来たときに、洗濯してハンガーに干してある女性物のパンツを見つけて修羅場になる…っていうね(笑)」

――そんな実話を取り込んでいたんですね…。他に気をつけた点はありますか?

「うーん、自分が書く意味を考えたかな。婚活には専門家はいるだろうし、他の分野にもそれぞれ専門家はいるじゃない。でも、多くの専門家はわかりやすく伝えることはできない。今回に限らずだけど、“わかりやすく伝える専門家”でありたいかなと。

結婚でも仕事でも、いろんな分野で悩んだり、つまずいたりしている人はいて、同時にその壁を乗り越えた人もいるわけで、そこには必ずノウハウがある。

だから僕はそれをひたすら研究して、わかりやすく表現して、人生に行き詰っている人たちに伝えていけたらと思ってます」

――さすが、水野イズムを継がれてますね!

「まあ今回、モチベーションがあれば本は出せる、っていうことがわかったから。普通、小説読んだこともないのに、小説書こうなんて思わないじゃない(笑)。出版界の常識みたいなものが頭に入ってたら、そんな行動しなかったと思うしね。

そもそも高校の国語の成績は赤点だったしね(笑)。“無知が生み出す奇跡”ってあると思ったよ。まあ、思えばあのときのメンバー全員ちょっと変わってた。だって本出てないのに、毎日自分たちの夕食を中継しようとか思わないでしょ(注)」

(編集部注:当時、水野敬也とアシスタントメンバーで『水野敬也のアトリエごはん』と称して、自炊して夕食を食べる様子を毎日Ustream配信していた)

――無知が生み出す奇跡!まあ確かに少し狂っているというか、あのときのメンバーは、放送作家とか、才能は溢れているものの、僕も含めて社会性に欠けているメンバーが多く…。ただ、その中でも大橋さんは1番きちんとしていた印象でした。

「あ、そう?でも片付けはできなかった」

――あ、確かに、大橋さんの机周りはグチャグチャでしたね。

「そう、だから自分の部屋もグチャグチャだった。でも、最近それは解消しました」

――どうやって解消したんですか?

「茨城の実家から2週間に1回、母親に来てもらって、家を掃除してもらうことにしたの。自分は本を書くのに集中できるし、コミュニケーションも生まれるから親子関係も良好になるし。――って最低な息子です…」

――え、親に掃除してもらってるんですか?茨城から?大橋さんいくつでしったけ?

「38歳になりました…。一生独身確定です…」

“立派なことを言う人”は“立派な人”じゃなくていい

最後に大橋さんが「婚活小説を書いているうちに、自分の婚期を逃したよ」と言いながら笑った。婚活、就活…と世の中には、それぞれが解決しなければいけない問題が溢れていて、そのヒントを求めて人々は本を手に取る。

ひと昔前までは、立派な専門家たちや“作家先生”が、そこに極意を詰め込んでいたのかもしれない。立派なことを言う人は、立派な人であることが求められたのだ。

でも、ある程度頑張れば本を出せるようになった現代、ヒントを詰め込むのは、こういった身近な“ちょっとした先輩”で、案外そんな彼らが言うことのほうが、わかりやすかったり、響いたりするのかもしれない。

その際、本人がちゃんとしているかどうかは、関係ないんじゃないか。そんなことを思った。

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