政府が6月に発表した2015年版の自殺対策白書。それによると、14年の自殺者数は2万5427人となり、5年連続で前年を下回っています。人口10万人当たりの自殺者数を示す自殺死亡率は20.0。ピーク時の03年と比べると26%減少したことになりますが、それでもまだ年間2万5000人以上の方が自ら命を絶っている状況。

そんな中、これまでに500人以上の自殺志願者を救った、茂幸雄さんという方が世界中から注目されています。

「心に響く文集・編集局」理事長 茂 幸雄さん

1944年、福井県生まれ。福井県三国警察署(現・坂井西署)勤務時代に東尋坊で自殺防止のパトロールを始め、定年退職後、NPO法人「心に響く文集・編集局」を設立。自殺しようと同地を訪れた人を思いとどまらせるために、日々パトロールにあたる

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元々は警察官であった茂(しげ)さん。ある件をきっかけに、自殺者の保護、そしてアフターケアの重要性を思い知らされます。

自殺の名所として有名な東尋坊

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絶壁に日本海の荒波が打ち寄せる景色で知られる観光地としても知られる、福井県の代表的な観光地「東尋坊」。ただこの場所は、全国的に「自殺の名所」というイメージが強くある場所です。

もともと警察官で、最後の赴任地がこの東尋坊を管轄する三国署だった茂さんは、自殺があったとき実際に現場へと出動し、遺体の検死をすることも多々あったそうです。そんな事が続くうち、「なんとかして、大切な命を守ろう」と考え、勤務時間外に東尋坊でのパトロール活動を始められました。

そして定年退職後の2004年、警察OBや元教諭らとNPO法人「心に響く文集・編集局」を立ち上げ、自殺志願者の相談所を東尋坊内の空き家に開設。これまでに500人を超える自殺志願者を保護してこられています。

止めるだけでは意味が無いと思い知った過去

パトロール活動も大事ですが、それ以上に大切なのが保護した後のケアなんです。


あれは現職時代のことでした。松林の近辺で年配の男女がたたずんでいました。そのうつろな表情から自ら命を絶とうとしていることが分かり、声をかけました。二人は涙ぐみながら、事業に失敗し多額の借金を抱え、もうどうにもならないと思い、ここへ来たことを語ってくれました。話をしたことで少し安心したのでしょう。表情も和らぎ、再起を約束してくれたのです。

その後、二人を地元役場の福祉課に保護を依頼し、ことなきを得たかに思えました。ところが、数日後のこと。一通の手紙が私のもとに届きました。それは二人からの遺書でした。行政機関の窓口を何か所も転々とした挙げ句、必要なサービスが受けられずに、二人は失意の中、この世を去ったのでした。

悔やんでも悔やみきれませんでした。このときほど、自分を責めたことはありません。自らの無力さを痛感したと同時に、「もう絶対にこんな悲劇を繰り返したくない」という祈りにも似た気持ちがわいてきたのです。

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その場で自殺を思いとどませることだけでは何も意味が無い。この後悔が、茂さんを突き動かしました。

その後のケアをするために「NPO」を起ちあげ

NPO法人 心に響く文集・編集局

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東尋坊の一角にあるお餅屋さん。ここが「心に響く文集・編集局」の拠点です

自費で新聞広告を出して、広く世間に訴えることにしました。自殺を思いとどまったり、自殺願望を克服した人から作文を募集し、それを『心に響く文集・編集局』と名付けて自費出版したのです。

これがのちのNPO法人の団体名となりました。保護した人をどうやって自立させていくかにも力を注いでいます。やり直すためには、仕事や収入が必要ですし、住む場所も確保しなければなりません。そこで、アパートを六部屋借り上げて、そこに仮住まいをしてもらっています

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普通であれば、パトロールを行い自殺を止める、それでも他の場所で自殺されてしまったら諦めるしか無いと考えてしまうかも知れません。しかし、茂さんは「止める事は当たり前、その後やり直してもらうにはどういったケアが必要か。」と考え行動されました。

最初は地元観光協会からも反対された

当初地元の観光協会からは「イメージを損ねる」と猛烈に反対されて、1年ももたないとささやかれていました。しかし、おかげさまで今年10年めを迎えます。少しずつ賛同者も増え、未遂者の再就職のあっ旋をしてくれたり、住居の提供を申し出てくれる人まで現われてきました。また、登録ボランティアは100人近くまで増えています。このうち20名が3人一組となり海岸線でのパトロール活動にあたり、午前中から日没まで、岸壁沿いをくまなく歩き回っています。東尋坊での自殺者の数もここ数年減少しています

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確かに、東尋坊は観光名所としても美しい場所。地元観光協会が「自殺」のイメージが増すような運動に反対する気持ちもわかりますが、結果としてこの活動が世界にも注目されるようになっています。

15カ国から取材。映画化の依頼も。

7、8年前から海外メディアにも取り上げられるようになり、これまでに約15カ国から取材を受けた。また13年には、初めて映画撮影を目的にアイスランドから一行が訪れた。茂さんの活動を含め日本の自殺にスポットを当てたドキュメンタリー作品が作られ、動画サイトでも配信された。

 今年に入り、ドイツ、韓国、フランス、アメリカ、カナダから映画撮影の依頼があった。4月には、フランスのラジオやネットを通して活動に興味を持ったフランス人写真家、ブレイス・ペーランさん(32)ら5人が訪れた。ペーランさんは3年前に1度茂さんを訪ねたが「写真だけでは伝わらない」と映像化を決意。初の監督業だったが、2週間の日程で数人を救う姿を撮影した。「500人を越える人の命を救ってきた地道な活動は世界を照らす光。心に残る作品に仕上げたい」と30分~1時間の作品にまとめるという

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以前公開されたドキュメンタリー

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Saving 10,000 – 自殺者1万人を救う戦い』は、日本の高い自殺率に疑問を持った、アイルランド人が制作したドキュメンタリー映画です。

・日本の自殺率は、アメリカの2倍、タイの3倍、ギリシャの9倍、フィリピンの12倍
・自殺者3万人のうち、1万人が過去になんらかのメンタルヘルスを受けている
・60歳以上の高齢者の自殺が、全体の3分の1を占める。
・救急救命センターに運ばれる患者のうち、全体の10%~20%が自殺未遂者電車に飛び込み自殺をした人のケース
…など、あまり知られない日本の自殺に関する衝撃的なデータが紹介されています。

同映画のクライマックスで東尋坊が出てきます。
自殺の名所であり、実際に自殺者が多く居ても、観光地だから柵を作るなど対策も取りづらい。そんな中、引退してから自費で店を建て、有志を募ってパトロールしている茂さんが紹介されています。

彼らは「死にたい」のではなく「死にたいほど、苦しい」

自殺した人の大半は、雨天ではなく、空がカラッと晴れ上がった日を選んでいます。これは何を意味しているのでしょう。自らの命を断とうとする彼らは「死にたい」のではなく、「死にたいほど、苦しい」のです。その気持ちを他の誰かに分かってもらいたいんです。心に響く優しい言葉をかけてもらいたいのです。その声なき声に耳を澄ませていくのが私の役目です

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茂さん曰く、それらしき(自殺を目的に来たと思われる)人は、日が暮れるまで崖の手前で座っているとのこと。決して死にたいわけではなく、「死にたいほど苦しい」想いを胸に東尋坊までやってきているのだから、誰か止めてくれる人を求めて声をかけられるのを待っているだけなのだそうです。

なぜ人はそこまで追い込まれるのか

ひと言でいうと、“思いやり”が欠如した現代社会にあると思います。悩みを抱えていても、親身になって聴いてくれる相手がいない。どんなにつらくても、手を差し伸べてくれる人がいない。自ら命を絶とうと思い立つ皆さんに共通しているのは深い心の闇に閉ざされた孤独感です。その孤独感が自分を追い込み、やがては死へと向かわせるのです。

生きていく上で、人には無償の愛で包んでくれる存在がどうしても必要なのです。あなたの身の回りで苦しんでいる人がいたらぜひ手を差し伸べてください。耳を傾けてください。その温かい言葉がその人を救い、ひいては周囲を明るく照らす灯となるのです。

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茂さんはこの様におっしゃっています。
実際に、茂さんが行っているレベルの行動を取ることは難しいと思います。でも、少なくとも身の回りの人に目を配り、手を差し伸べることくらいは出来るかもしれない。それだけで救われる人が居るかもしれない。

なかなか周りに気を配る余裕を持てない時代ではありますが、茂さんの運動から私達が学べる事は多い気がします。

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