画家アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックが、稀代の美食家にして名料理人だったことを筆者に教えてくれたのは、2002年に放映されたNHKハイビジョンスペシャル「ロートレックからの招待状~究極のレシピが明かす天才の素顔」という番組でした。

 巷に伝わるロートレック像は、名門貴族の家に生まれながら、骨の病気で13才で足の成長が止まってしまい、すれ違う人が振り向くほどの小男、19世紀末のフランスに生き、お酒とムーランルージュを愛し、36才の若さで夭折した放蕩と退廃の天才画家、といったところでしょうか。

 しかし、この番組は、岡田真澄扮するモーリス・ジョワイヤン(画商にしてロートレックの親友)が「料理人」としてのロートレックを紹介していくという趣旨です。


 映画「葡萄酒色の人生 ロートレック」にも「ムーランルージュ」にも、ウィキペディアにも、そういう描写がなかったけど、実はロートレックは美食家にして名料理人だったそうです。

 故郷のボルドー、トゥールーズでは「グルメ エ グルマン」則ち「美食にして大食」のことを「ロートレック家の胃」というそうです。ロートレックは大食いだったんですね。

 当時の貴族は、ジビエ(狩りの獲物)をみずから捌き料理して、使用人にさえ教えないレシピを代々伝えたそうです。

 そんな環境で育ったロートレックは、パリに出ると、仲間達とともに「MOMO」という美食クラブをつくり、新しいレシピを次々と生み出しました。そのレシピを、彼の死後、ロートレックの親友であり画商であったモーリス・ジョワイヤンが「独身モモ氏の料理法」 という本にまとめました。

 この本は、桐島洋子氏のベストセラー「聡明な女は料理がうまい」の中にも、料理をしたことのない友達の女医に料理指南をするにあたり、テキストとして参考にしてもらうというくだりにも出てきます。(そこでのタイトルは『美食三昧 ロートレックの料理書』)

 本の中には、「黒鴨の煮込み」「ひな山鳩のオリーブ添え」「オマール海老のアメリカ風」「子牛のマランゴ 風」など、見た目は素朴ながら手間ひまかけたボリュームたっぷりの創作料理が紹介されています。

 お酒好きならではの「牛肉のマルロメ酒煮」「フォアグ ラのポルト酒風」、ユーモアを愛した彼ならではの「にせうさぎのパテ」「修道女のおなら」というのもあります。

そして、その美食倶楽部MOMOには8条の掟があるのです。

 この掟は、言質にとらわれず真髄を読み込めば、現代のホームパーティにも通じることばかり。ご紹介します。

その1. テーブルクロスと食器は白にすべし。

 ロートレックにとって、白い食器に料理を盛り付けることは、白いカンヴァスに絵を描くことと同じ、芸術だったのでしょう。

その2. 招待客は8~10人に限るべし。

 パーティに最適な人数は諸事情によって変わるでしょうが、多すぎても少なすぎてもダメってことでしょうか。

その3. 招待客は厳選すべし。

 食事を楽しむには、「何を」食べるかも大事だけれど、「誰と」食べるかは、とても大事ですね。

その4. 食事には腹ぺこで臨むべし。

 空腹は最高のオードブル、空腹は最高のスパイス、です。

その5. 食事は大皿に盛って会場まで運ぶべし。

 気のおけない友人たちとのカジュアルなパーティは、大皿を並べてそれぞれ取り分けるスタイルが盛り上がります。

その6. 食卓の中央には皿温め器を。

 冷たいものは冷たく、温かいものは温かく、ゲストに美味しくたべてもらいたい!というおもてなしの気持ちが大事ってことですね。

その7. 食欲を妨げるものは許すべからず。

 大いに食べて、大いに飲むために、その場を台無しにしてしまう話題や言動は、NGです。

その8. ワインは存分にふるまわれるべし。

 お酒好きのロートレックのこと、気前よく飲んで、大いに楽しんだことでしょう。

 美食倶楽部MOMO8条の掟、いかがでしたか?

 時代を超えて、現代のホームパーティに通じることばかりですね。

 この掟からも、 陽気で茶目っ気たっぷりのエピキュリアン、お酒を愛し、芸術として料理を愛し、そんな人生をこよ なく愛した画家の姿が浮かんできます。


 お酒に蝕まれ精神を病んで入院していたたロートレックが退院したとき、ジョワイヤンは彼を元気づけるには美味しいものを食べるのが一番と、一緒に旅行に出かけ、鴨を 撃ちに行ったそうです。

 夜の世界に生きる女達の孤独や寂しさへの共感を絵に託した画家の、料理への愛、ジョワイヤンとの友情に心を馳せながら、美食倶楽部MOMOの掟をルールに、ホームパーティを開くのも、粋かもしれません。

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