新橋洋楽バー物語「レッツ・ダンス」~2人の出逢いはこの1曲で~

出典筆者お客様撮影

僕の店の常連には1人で来る人が少なくない。

別に僕は、そんなに話が上手でもないし、他のお客さんの相手もしなくてならないから、付っきりで接客に集中できる感じもないのだが。

きっと好きな音楽が掛かるからだとは思うが、そんなお客さん達は、それでいいと思ってくれているようだ。申し訳ない時もあるが、有難いお客さんたちだ。

そんな1人で来るお客さんに、当店では珍しい女性の方がいる。美大を出て出版関係のデザイナーをしているという美人キャリアウーマンのAさんである。

仕事はバリバリしているようだが、「適齢期」を過ぎてしまった事を凄く気にしている様子だった。

Aさんは、デヴィッド・ボウイの「レッツ・ダンス」をよくリクエストする。

David Bowie - Let's Dance

出典 YouTube

出典 http://www.gettyimages.co.jp

「そういえば、似たような仕事をしている方で、この曲を時々リクエストされる歳も近い独身の男性が僕のお客さんにいますよ」と僕はAさんに言ってみた。

「え~、逢ってみたい!」とAさん。

「もしかしたら、よく来ている方だから、見たことはあるかもしれませんね…。今度紹介しますよ」

何となく、仕事や音楽の趣味が似ているし、歳も近いし独身同士だから、カップルを誕生させようと僕は思うようになった。

ここで掛かっていた曲が終わったので、Aさんの好きな「レッツ・ダンス」を選曲した。コーラスから入って一気に盛り上がる感じが素敵なナンバーだ。

なんとタイミング良く、そこへ、僕がAさんに紹介したかったSさんがやってきた。

出典 http://www.gettyimages.co.jp

Sさんはデザイン学校を出て広告や出版物のデザイナーとして活躍している方で、新聞広告などで「え?これもSさんの作品なの?知ってますよ!」なんてことがある人である。しかもかなりのイケメンである。

丁度、席もあまり空いてなかったし、SさんをAさんの隣に案内した。

レッツ・ダンスのブルージーなギター・ソロが流れている頃だった。

「なんだ、レッツ・ダンス最初から聴きたかったなぁ…」とSさん。

「また、後で掛けましょうか?」

「いいよ、今日は掛かっちゃったなら違うの聴かせてもらうよ」

僕はAさんと目を合わせる。

出典 http://www.gettyimages.co.jp

「Aさん、さっきチラッと話したの、この方です」

Sさんは不思議そうな顔をしていた。

その後僕は忙しくなって、あまりその後2人の接客を出来なくなってしまった。

でも、AさんとSさんは、何だか話しをしているようだった。

結局その日は、それで終わってしまった。僕は仕事が忙しかったのは嬉しかったが、肝心なカップルを作るという作業に関われなかった。

その後、AさんもSさんも1人ずつ来られたが、店で一緒になることは無かった。あまり興味本位で聞くのも悪いと思い、それぞれに相手の印象などを尋ねたりはしなかった。

そのたび僕は、2人のテーマ曲にと、この「レッツ・ダンス」をどちらが来ても選曲した。

出典 http://www.gettyimages.co.jp

時は経ち、僕のカップルを作る作戦を自分で忘れかけていた頃、いつもよりは深い時間にAさんが来た。

相変わらず僕は「レッツ・ダンス」を掛けて、Aさんを迎えた。

「私達付き合ってるの」

「え?誰とですか?」

「Sさんとよ」

「え~~~~!!僕、別にそんなにプッシュしてないですよね?」

「でもね、そうなったの」

「あ、そうですか。。おめでとう御座いますでいいですよね?」と、訳の分からない台詞を僕が言うと。

「うん、有難う」とAさん。恋をしている女の人は綺麗になるって聞いた事があるけど、Aさんのその時の顔は確かにいつもに増して綺麗だった。

デヴィッド・ボウイのセクシーな歌声と、スティーブ・レイボーンの小技の利いたギターが、そんな話を盛り上げるように店内に流れる。

83年全米1位を記録したこの曲が流行っていたころ、AさんとSさんは高校生だったと思われる。Aさんは東京の下町生まれ、Sさんは北陸の出身だ。それぞれ違った空を見ながら、この曲を聴いて育ったのだろう。

出典 http://www.gettyimages.co.jp

そして新橋という繁華街の場末の僕の店で、たまたまこの曲が好きな者同士、出逢うことになった。大袈裟に言うとこの曲が運命の曲っていう事なのだろうか。

その後、何度か一緒に来るようになり、僕はカップルの誕生に少しだけだが関わった者としての嬉しさを感じることが出来た。勿論その度にバックには「レッツ・ダンス」である。

出典 http://www.gettyimages.co.jp

デヴィッド・ボウイの代表曲と言ってもいいほど大ヒットしたこの曲だが、流行りすぎた為か、デヴィッド本人は「この曲はコマーシャル過ぎた、ライブではやらない」と言っていると雑誌で読んだことがある。

でもデヴィッドには「貴方が大ヒット曲を作ってくれたからこそ、それを聴いて育った2人がカップルになったんだ。いい仕事してるね!!」と言いたい。

出典 http://www.gettyimages.co.jp

それから時は過ぎ、2人は晴れて結婚をすることになった。近親者のみで挙式をということで、「歌かスピーチは必ずさせてくださいね!」と何度も言っていた僕は呼ばれなかったが、僕がこの街にたまたま店を出し、お客様がたまたま来店し、たまたま音楽の好みが合い、たまたま付き合うことになって…と考えると、どの「たまたま」が抜けても、カップルにはならなかったのではないかと。

音楽の持つ力と人の縁っていうのは素晴らしいものだとカウンターの中から思うのである。

この記事を書いたユーザー

奥村裕二 このユーザーの他の記事を見る

東京都大田区大森生まれ。立正大学附属立正高等学校、尚美学園短期大学音楽ビジネス学科、放送大学教養学部生活福祉専攻卒業。STAY UP LATEオーナー。 ライター業と、セミナー講師、司会業も実質少々。江戸川区在住、一児の父。愛猫家。

得意ジャンル
  • マネー
  • 動物
  • 国内旅行
  • おでかけ
  • グルメ
  • 恋愛
  • 美容、健康
  • キャリア
  • おもしろ
  • 音楽
  • 社会問題
  • 育児
  • コラム

権利侵害申告はこちら

Spotlightのライターなら1記事最大3000円もらえる!日本最大級メディアでライターデビューのチャンス