江戸時代の商人たちの間で使われていたという日常生活のマナー「江戸しぐさ」。

様々な人がいるなかで互いに仲良く平和に暮らしていくことを目的とした江戸しぐさは、日本人の良きお手本として企業の研修や学校教育に使用されています。

しかし、この江戸しぐさが偽物ではないかと問題になっているのです。

6月25日放送の「NEWS 23」で取り上げられ、ネットでも物議を醸しています。

江戸しぐさについて書かれた文献は無い

江戸しぐさの実在を示す史料は確認されていません。

江戸しぐさの普及を促進するNPO法人「江戸しぐさ」は口頭で伝承されてきたものなので文献資料は存在しないのだと言いますが、不自然な点が多いと江戸文化に詳しい人達から指摘を受けています。

当時のライフスタイルに合わないマナー

出典 YouTube

江戸しぐさの一例

【傘かしげ】
雨の日に互いの傘を外側に傾け、傘がぶつかるのを避けて濡れないようにすること。

【時泥棒】
断りなく相手を訪問したり、約束の時間に遅れるなど、相手の時間を奪うことをしない。

【こぶし腰うかせ】乗合船などで後から乗る人のためにこぶし一つ分腰を浮かせて席を作ること。

【逆らいしぐさ】
「しかし」「でも」と文句を並べて逆らうことをしない。年長者のアドバイスに従うことが人間の成長にもつながる。

【喫煙しぐさ】
「喫煙禁止」の張り紙がなくても非喫煙者がいる場所では喫煙しない。

たとえば公共広告機構(AC)に使われている「こぶし腰浮かせ」ですが、当時の渡し船は出発直前にいっせいに乗り込む方式をとっていたため、途中から新たな客が来るということはあり得ないという指摘があります。

「傘かしげ」に関しても当時、傘は高級品で多くの人は頭に被る傘や蓑を使用していたこと、傘を使うにしても洋傘と違い、和傘は傾けるよりすぼめるほうがお互い濡れにくいなど江戸町民の生活と噛み合わない部分があります。

他にも明確な時間意識のない江戸時代に「時間を奪う」という発想があったのか、当時の料理屋等では客に煙草盆を出すのが当たり前だったのに喫煙禁止の張り紙があるのはおかしい・・・など言い出したら切りがありません。

江戸っ子の大量虐殺と秘密結社

NPO法人「江戸しぐさ」は江戸しぐさに関する文献資料が残っていない理由について「江戸っ子が明治政府によって大量虐殺されたからだ」と主張していますが、いよいよ荒唐無稽な話になってきます。

生き残った江戸っ子たちが秘密結社を作り、密かに江戸しぐさを存続してきたというのです。

しかし、江戸しぐさは古典落語にも残っていなければ、杉浦日向子などの江戸文化研究家に取り上げられたこともありません。

まるで村人が全員殺されて地図から消えたという「杉沢村」の都市伝説のようです。

最初はちょっと良い話として取り上げられた程度だったのかもしれません。それが広まっていくにつれて話に説得力をもたせなくてはならず、色々と盛り込んでいった結果、都市伝説化してしまったのではないでしょうか。

良いことなら広まってもいいんじゃないの?

気遣いができる人間を育てようということ自体は悪いことではありませんが「江戸しぐさ」が教育方面に大きな影響を与えていることは問題視すべきです。

現在使われている小学校の道徳の教科書でも「江戸しぐさ」が紹介されているのです。

「江戸しぐさの正体(星海社新書)」の作者で作家の原田実氏はこのように指摘しています。

「江戸しぐさ」の説明をみていくと、現代人の不作法を非難し、それと対比する形で「江戸しぐさ」を行う江戸っ子を称賛するという形式のものが目立つ。それは、老人が「最近の若者」を非難することで、自分たちの若いころを称揚するのに似ている

出典 http://www.excite.co.jp

大きく批判されてこなかったのは内容があまりにも荒唐無稽すぎて歴史家が反論するレベルではないと考えられてきたからなのですが、これを文科省が史実であるかのように広めているのであれば、専門家も黙って見過ごすわけないはいきません。

現時点でこれほど多くの矛盾が指摘され、存在していなかった可能性のほうが高いものを採用する意図はなんでしょうか?

自分たちの都合の良い教育をするために歴史を湾曲してもかまわないと考えているとしたら恐ろしいことです。

いい話でも鵜呑みにしてはいけない

問題点が明確に指摘されている「江戸しぐさ」がこれほど広まった理由は、先入観や思い込みによるものです。

「江戸しぐさ」の場合は、「江戸は太平だった」「昔の人はモラルがきちんとしていた」という人々の先入観にまず答えたことが功を奏したわけです。

出典 http://blogos.com

原田氏いわく基本的に人は“いい話”を疑わない。

「感動」を謳う記事が盛んにシェアされている事実を見ても明らかです。

情報社会は玉石混交。溢れるほどの情報のなかで何を選んでいくか、自分の頭でしっかり考える必要があるのではないでしょうか。

「江戸しぐさ」に習うまでもなく、自発的に気遣いができる人間になりたいものです。

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華蓮 このユーザーの他の記事を見る

子供の頃から不思議なものを見つけたら調べずにはいられない性格。ちょっと恥ずかしがり屋なのはご愛嬌。一般の人が知らない「面白い」を探すのが私の喜びです。

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