先日、偶然に目に留まった一つの記事。何でも2020年からの大学入試試験の変革が検討されていて、今までのマークシート方式ではなく、思考力や表現力が問われる「記述式の導入」が素案に盛り込まれているそうです。         

記述式の試験と言えば、フランスの「バカロレア」。今年は6月17日から6月24日まで、折しもフランスの高校3年生はちょうど試験の真っ只中です。実は筆者の娘も受験中で、その複雑なシステムについてようやく理解はできたものの、大昔自分が受けた日本のセンター試験との違いに驚くばかり・・・

しかし、日本でも取り入れてもいいのでは?という画期的なアイデアも!皆さんにもぜひ知っていただきたいフランスの受験事情についてご紹介します。

バカロレアとは?

バカロレア(Baccalauréat、通称Bac=バック)とは、大学などの高等教育機関へ入学するための資格を取得する国家試験のことです。毎年6月に高校3年生が受験します。

始めたのはあのナポレオン一世

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フランス革命後に撤去された大学を再び制定、統一したナポレオン一世。その時にバカロレアは始まりました。1808年ですから今から200年以上も前のこと。日本は江戸時代の後期・・・まだ大学はありませんでした。

難関ではない・・・

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大事な将来を決めるバカロレア。受験生やその親がピリピリするのはフランスも同じこと。でも、各教科20点満点で全体の平均が10点以上なら合格ですから、決して難関ではありません。合格率も1970年代は67.2%だったのが、昨年は89.9%。嬉しい結果ではありますが、一方で希少価値がなくなったとも言われています。

最初の受験科目は「哲学」

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バカロレアの第1日目の受験科目は毎年、「哲学」と決まっています。どの専攻でも高校3年で習う必須科目で、全員が受験しなければなりません。そして当日はその質問内容の発表を、フランス人は興味を持って待ちます。哲学がこの国でいかに大事な学問なのかを感じさせられる日です。

日本で習った「倫理・社会」に似てますが、試験内容は全く違います。それは、次の質問を見てもらえれば、わかってもらえるでしょう。しかも、文系、理系、経済・社会系と専攻で問題が違うというのも面白いですよね。

文系
-すべての生物を尊重することは道徳的義務なのか?
 (Respecter tout être vivant, est-ce un devoir moral ?)
-自分の過去が自分を形成したのか?
 (Suis-je ce que mon passé a fait de moi ?)

理系
-芸術作品には常に意味があるのか?
 (Une œuvre d’art a-t-elle toujours un sens ?
-政治は真実の欲求から逃れられるのか?
 (La politique échappe-t-elle à une exigence de vérité ?)

経済・社会系
-個人の意識はそれが属する社会の反映でしかないのか?
 (La conscience de l’individu n’est-elle que le reflet de la société à laquelle il     appartient ?)
-芸術家は理解のために何かを与えるか?
 (L’artiste donne-t-il quelque chose à comprendre ?)


受験時間は4時間。これらの質問から一つ選び、A4の紙6~8ページに過去の哲学者の考えを引用したりしながら、自分の考えを埋めていきます。さすがは「哲学の国」です。フランス人がなぜ議論好きで、自分の考えをあれほど説くのか、これで理解できた気がします。

ほかにも言語、歴史などの試験も記述式です。特に言語は、フランス語のほか英語やスペイン語、イタリア語、ドイツ語などの中から第2外国語まで必須で、記述式のほかに口頭試験もあります。口頭試験のテキストは自分で考え、暗記しなければなりません。

日本でも共通2次試験等で記述式はありますが、著者の記憶では、高校ではそのための授業はありませんでした。しかし、フランスでは、高校で徹底的に指導してくれます。

得意分野をオプションで受けられる。

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通常の教科に加えて、自分の得意分野をオプションで追加できます。例えば、水泳や柔道、テニスなどのスポーツ、ピアノやバイオリンなどの音楽、ダンス、絵画、お芝居などなど。フランスでは習い事が盛んで、そうした自分の得意分野を受験して、点数を加算することができるのです。

多民族国家フランスにはいろんな人種が集まっています。ですから、いろんな国の言語のオプションもあります。日本語ももちろんです。

試験中は食べ物の持ち込みも可。

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バカロレアの試験の時間は、大抵3時間~4時間と長いせいか、なんとお菓子など食べ物を持ち込み、食べながら受験していいんです。これはバカロレアに限らず、通常のテストでも同じなんですよ。

バカロレアに合格すれば、好きな大学に入学できる。

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フランスの大学はほとんどが国立で、授業料は無料です。また、日本のように大学ごとに受験しません。高校卒業の証明となるバカロレアに合格さえすれば、基本的には好きな大学に入れます。たとえば、私が東大を希望すれば行けるってことです(笑)。有名なパリ大学が優秀な印象がありますが、フランスの大学に人気のランクはあっても、学力のランクはありません。

フランスではバカロレアを取得することによって原則としてどの大学にも入学することができる。大学の定員を超えた場合にはバカロレアの成績や居住地などに応じて、入学できる大学が決まる。

フランスのバカロレアには、以下の3種類がある。
一般バカロレア
専門バカロレア
工業バカロレア

一般バカロレアも科学系(scientifique、通称: S)、人文系(littéraire、通称: L)、経済・社会系(économique et sociale、通称: ES)と分野別に分かれている。 3つのうち科学系が最も難しく、科学系卒業者は全ての分野の職業に就けるとされている。

その結果、多くの若者は科学系進学を希望し、近年科学系の生徒数増加、そして経済・社会系の生徒数減少という現象が見られる。一方、人文系は弁護士やジャーナリストまたは作家などの将来図を持っている生徒が集まるとされている。

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未来のエリートは大学には行かない。

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大学にランクがなく、好きなところに行けるなら、勉強はそう頑張らなくてもいいじゃないか?という声が聞こえてきそうですが・・・フランスには、大学よりもさらに上の教育機関グランゼコールというものがあります。こちらは、入るのも大変難しく、フランスのエリートはほぼグランゼコール出身です。

大学では広い教室で教授の話を聞いてあとは自分で勉強しなければならないのに対し、グランゼコールでは、高校の延長のように少数精鋭のクラスに教授が就き勉強できます。こうして、フランスの将来を担うエリートが養成されます。

グランゼコールにもピンからキリまでありますし、医療関係の学部は大学にしかないのでグランゼコールだけが優秀とは言えないのですが・・・フランスならではの面白いシステムです。

しかし一方で問題点もあります。授業料が無料の大学に対して、グランゼコールの授業料は年間70万から100万円程かかるそうで、どうしてもお金持ちの子孫が集まります。貧富の差が激しいフランスでは、財力がないと出世できない、厳しい現実があります。

グランゼコール(Grandes Écoles 発音例、またはグランド・ゼコール)とは、フランス独自の高等専門教育機関である。フランスに200校ほどあり、いずれも専門分野においての高度専門職養成機関としての役目を果たしている。その中でも特に歴史のある学校が名門とされている。

グランゼコールには、その特性により医学・神学の分野は存在しない。そのため、医師、聖職者を志望する場合には、大学課程に進学する必要がある。

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記述式を導入すべきか!?

いかがでしたか?フランスと日本の受験事情、随分違うでしょう?ちなみに、フランスでは高校受験もありません。内申書と面接で決まります。おかげでストレスも少なく、とても助かりました。

とは言え、全体的な学力は日本の方が高いような気がしますし、優秀な人材も多く輩出しています。また、日本の技術の高さも世界的に認められていますよね。

ただ、弱点があるとすれば、自分の意見をきちんと説明することが苦手なような気がします。それはまず政治家を見ていて一目瞭然です。フランス人は、とても理論的にわかりやすく自分の意見を述べます。それは、こうして若い時から自分の考えを述べることを訓練された結果だとすれば、日本でも試してみるべきです。

自分の考えをまとめて発言する力は、今後日本人が国際的に活躍していく上では必須でしょうし、普段の生活の中でも生きる力になるのではないでしょうか。

この記事を書いたユーザー

mama chempy このユーザーの他の記事を見る

渡仏してから17年、パリ郊外在住。趣味は料理とお菓子作り、旅行、芸術鑑賞、ヴィンテージ雑貨などなど。パリの観光バス会社で勤務後、現在はブログにてパリ情報を発信しています。
「レシピと雑貨とパリ案内」http://taneko39.blog.jp/

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