記事提供:長谷川豊 公式ブログ

「絶歌」読了。個人的な感想を記したい。

余りにも、世間の常識的な反応とはかけ離れた感想になってしまうが…正直に言うと、「読んで良かった」が感想となる。

私に関しては、完全に読む前の考え方は覆された。批判を覚悟の上で書いた元少年Aにも、大変な批判を受けることを分かった上で出版に踏み切った太田出版に対しても、私は理解をしたい。そう言える内容だった。

まず、文章力・表現力だが、本当はゴーストライターが書いたのではないかと疑いたくなるほどのかなりしっかりした文章である。

比喩表現が多少行き過ぎているところが多い気はするが、読み辛いというところまではいっていない。

自身の置かれた状況やシチュエーションが目の前に浮かんでくる文章であり、読み応えは十分すぎるほどある。

そして、体験や心情をかなりしっかりと思い出せている。少年院にいる間に、ずいぶん時間をかけて自分と向き合ったのだろうか…。

犯した過ちから背を向け逃げているわけではなく、ちゃんと向かい合っている、と私は判断した。

そうなると、彼の「体験」は極めて特異なものであり、そこから紡ぎだされる心情や考え方は「貴重なサンプル」ともいうことは出来る。

本書は2部構成となっており、最初に「あの当時に何があったのか」を中心に話が進み、後半部分に医療少年院を出た後にどのような11年を過ごしてきたのかを記されているのだが、

この元少年Aの目から見た凶悪事件への見解や感想なども綴られており、それはやはり大変に興味深い文章だった。

私以外にもそこから何かを感じ取れる方々もいるにはいるだろう。

本書を読んでいないテレビのコメンテーターなどが、

「犯罪を誘発するのではないか!」

「印税で犯罪者がもうかるのは許せない!」

と憤っていたが、それに対しては反論したい。少なくとも、犯罪を誘発するような内容のものでは全くない。それは読めばわかる。

そして、元少年Aは許しがたい犯罪を犯し、法治国家日本のルールに従って裁かれ、処分を受けた。色々な意見が外野席から飛ぶことは理解はするが、文句があるのであれば、それはご自身が選挙に出馬し、法改正を行えば済む話である。

元少年Aはすでに、日本国の定めるところのルールに従い「罰」を受けている。

それに対して文句が言いたいのであれば、まずは司法に対して文句を言い、彼の更生のために様々尽力した人間たちに言えばいい。

それ以上に文句があるのであれば、先ほども言ったように、まずは法を改正すべきだ。

少なくとも、罪を犯し、それに対する「罰」を受けた元少年Aが、本も読んでいない外野席のヤジに批判される必要はない。

せめて文句があるのであれば、この本を全文しっかりと読んでから言え、と言いたい。本当に、読む前に思っていた通りの感想であるのであれば、だ。

もちろん元少年A、並びに出版元である太田出版は、せめて被害者家族である両ご家族に仁義を通すべきだったとは私でも思う。

特に…元少年Aが会いに行けないのであれば、太田出版だけでも、この原稿を持って行った上で、被害者となった当時小学3年生の女子児童のご家族と小学5年生の男子児童のご家族、この両者には絶対に許可を求めに行った方がよかったものと思う。

でなければ、いらぬ傷を再び刻んでしまうことになったろう。そこは間違っていた、と断罪されるべきことである。

しかし、それらを考慮しても、この本には読む価値はあると私は思いたい。

元少年Aは、犯した罪と影響の大きさを理解し、慎重に気配りをしながら、それでも「伝えたいこと」がありペンをとった経緯が本書には丁寧に記されている。

私は以前、大手テレビ局に勤めていた時期に、最初についた仕事が「風化しそうな事件を、もう一度検証し直そう!」という企画だった。

6年間、延べ300回近く続いたその企画では、100人近い事件や事故の被害者家族と向き合い、苦しい、つらい心境を何度も吐露していただいた経験がある。私もインタビューをしながら何度、共に涙を流したか分からない。

ある日突然訪れる、その理不尽極まりない状況に、ある人は心を閉ざし、ある人は心を病み、犯罪被害者はみな、本当に苦しんでいる。

日本の司法は、現段階では、あまりにもこの「犯罪被害者」に対して軽く扱いすぎいている、というのが私の基本的な日本の司法に対するスタンスだ。

そこに罪がある以上、もっと厳しく裁かれるべきことは多々あると思う。

特に現在の日本は、無菌状態が大好きだ。キズモノはどれだけ回復させようと真剣に頑張っていたところで、誰も相手にしない人間が多い。昔のキズモノも同じだ。

表面上だけでもピカピカの人間しか相手にしたがらない日本人は少なくない。その考え方や価値観自体が、すでに病んでいるものとも知らずに。

この本を書いた元少年Aは、そんな日本社会の中で、もがきながらもそれでも懸命に生きようとしている。そしてそのカッコ悪い姿をさらそうとしている。

そんな人間まで叩きのめして、自分をかりそめの安心に浸らせる趣味は私にはない。

本書には「反省」も多数出てくるのだが、それ以上に、とにかく随所随所に出てくるのは「感謝」だ。人に触れ、家族の温かさを知り、その度に、自分の罪の重さをかみしめる様子が伝わってくる。

特に元少年Aのご家族が、とても素晴らしい家族であることがしっかりと綴られている。

繰り返すが、多くの方々が想像している内容とは少し違うと思う。

私は、この本は世に出して良かったと思える内容になっている、と感じた。被害者ご家族も、どうかいつの日かで構わないので、お読みいただきたいと思う。

この本を読むことによって、むしろ救われる何かがあるような気がする。それだけの内容になっている。

力を込めた、魂の宿った1冊である、と私は思った。

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