コンテンツとは何か?

ぼくは恵比寿のアパートの一室を借りました。鈴木さんの事務所である、「れんが屋」のすぐ近くです。一応はぼくが経営していることになっているドワンゴに出社するのは毎週水曜日の一日だけ。あとは鈴木さんとずっといっしょの毎日です。

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川上さんは、スタジオジブリ代表の鈴木敏夫さんの「カバン持ち」をしていた過去があります。なんか色々おかしいですが、本当の話です。この本を読むと、なぜ彼が本気でジブリに弟子入りしたのかがよくわかります。

本書のテーマは「コンテンツ」。コンテンツって、よく使う言葉ですが、その本質はいったい何なのでしょう。ジブリでの経験から、川上会長は「コンテンツ」について精密な議論を展開していきます。

ドワンゴの着メロが売れた理由

詳しくは本書を読んでいただくとして、特に面白かったのが「ドワンゴの着メロが売れた理由」についてのエピソード。

つまり高校生にとって「いい着メロ」とはなにか、なにを基準に着メロのよし悪しを判断しているのか、とは音の大きさだったわけです。

ところが音が大きいほうがいいというのは他の着メロサイトもさすがに分かっていて、どこのサイトも音量は最高に設定したデータで着メロをつくっているわけです。

そこで音量設定をこれ以上あげられない状態で音を大きくするために、ぼくらが思いついたのが、違う楽器の音を同じ音程で同時に鳴らして、音を重ねることによって音に厚みを持たせるというテクニックです。

ふつうの着メロは原曲がピアノを使っていたら、着メロのピアノの音色を割り当てて鳴らすし、原曲がギターを使っていたら着メロのギターの音色を割り当てて鳴らすのが当たり前なのですが、

ぼくらはピアノだろうがギターだろうがベースだろうが音色を問わず、原曲でその楽器を使っているかどうかはもはや関係なくて、たんに重ねて音圧を上げるための道具として使うことにしたのです。

こうして、他社のどこの着メロサイトよりも大きなメロディを鳴らせる、ドワンゴオリジナルの合成音色というのを開発して、それで着メロをつくったのでした。

結果、高校生や大学生を中心に、なんだか飛び抜けて音のいい着メロサイトがあると口コミで広がり、大ヒットにつながったのです

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川上さんは、コンテンツについてこう語ります。

目や耳が肥えていない一般のユーザーが認識できるコンテンツのパターンは、そもそも少ないのです。

コンテンツがとにかくワンパターンになりがちなのは当たり前なのです。それはむしろコンテンツの本質だとぼくは思います。

コンテンツとはほうっておくと、どんどんワンパターンになるものなのです。

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この議論は、最近のバイラルメディアを彷彿とさせます。あれはまさに、どんどんワンパターンになっていますよね。良くも悪くも、「コンテンツとはほうっておくと、どんどんワンパターンになる」というのは、コンテンツの真理なのです。

ぼくらクリエイターは、まずはこれを「前提」として捉えなければいけません。

「宮崎作品については、やっぱりストーリーなんかどうでもいい」

もうひとつ、衝撃を受けたのがこちらの話。

ふつうは脚本に合わせて映像をつくっていきますが、宮崎駿さんは映像に合わせてストーリーを変えていくのです。

頭のなかに浮かんだ良い場面、素敵な映像をつなげるように間を埋めてストーリーをつくるのです。

だからストーリーとしてあったほうがいい場面も、それをちゃんと描けないと判断したらやりません。

いいシーンが描けなければストーリーごと削ってしまうのが宮崎駿さんなのです。

鈴木敏夫さんは「宮崎駿は映画を見るときも表現しか見ない」と言います。宮崎監督は映画を一本すべてではなく途中から見て、少し見たらまた別の映画に変え、それも少し見たらまた次へという具合に、細切れで何本も見るのだそうです。

なぜそういう鑑賞が可能なのかというと、それはストーリーではなく、映像表現を見ているからだそうです。

少なくとも宮崎作品については、やっぱりストーリーなんかどうでもいいのです。

もし、宮崎作品の魅力がストーリーにあったとしたら、こんなに何度もお客さんに見てもらえるわけがありません。

これだけテレビで再放送をやっているのですから、視聴率が下がらないわけがありません。

ストーリーが目的だったら、分かってしまえばもう見る必要はないからです。

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これは非常に示唆に富む話だと思います。ブログを書く上でも、ものすごい参考になります。

ぼくが扱うような文章の世界って、結局、「みんな言ってることは同じ」なんですよね。

書中では「ストーリーのパターンは限られる」という指摘があるのですが、ブログにおいても、内容は結局かぶるんです。

それこそ、お釈迦様からチェ・ゲバラまで、偉人の言葉って「みんな言ってることは同じ」です。

ではブログの本当の魅力はどこにあるかというと、ぼくは「文体」だと思っています。

ブログにおける「文体」とは「だ・である調」という議論を超えて、動画や写真をどう使うか、デザインをどうするか、配信頻度をどうするか、誰に語りかけるか、「そんじゃーね!」を使うかどうか…といったマーケティング、アートに関する議論にまで広がります。

ブログの内容・文章力がある程度のレベルに達しているのは、当然の話で、そこは極論「どうでもいい」んです。

本当に難しいのは、独自の文体を作り上げることです。文体に独自性があれば、何を書いても面白くなりますから。

生活がコンテンツに反映される

こちらもすばらしい指摘。

鈴木さんは宮崎駿監督が七〇歳を超えても、いまだに大衆作品をつくり続けられている理由として、生活が質素なことを指摘しています。

宮崎駿さんは昔からずっと変わらない生活を続けているそうです。毎朝、出社して仕事をして帰る。毎日の食事は奥さんがつくってくれた弁当。

週末は近所の森や河原を散歩してボランティアでゴミを拾います。贅沢なことはなにひとつしないといいます。

ただ、ジブリ美術館とか保育園とか、お金を使うことは天才だと鈴木さんは笑います。鈴木さん自身も、事務所にしているれんが屋はとても趣味のいい空間ですけど、贅を尽くした場所ではありません。

「贅沢をするのが別に嫌いというわけではないけど、ぼくが生活を変えるとね…。いま付き合っている人たちの多くとは付き合えなくなるから」

そんな説明を鈴木さんはするのです。

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これは「生活がそのままコンテンツに反映されてしまう」という力学の指摘だと読み取りました。

あなたがどんなコンテンツを扱っていようが、その表現は、「あなたがどういう暮らしをしているか」の影響を、無意識的に受けてしまうのです。これはけっこう怖いことで、自分の力ではどうしようもないんですよね。

ぼくは生活がコンテンツに与える影響を重視しているので、高知に移住しました。東京ではもういいものは作れません。

そろそろ移住して1年が経つので、ぼちぼち高地市内を離れ、もっと山奥で暮らすつもりです。山奥の生活環境は、またぼくに違った天啓をあたえてくれることでしょう。

あなたは、生活の影響を逃れることができません。これもまた、コンテンツ制作における「前提」だと思います。

作者も解けない謎を用意する

あぁ、いいこと書いてありまくるので、キリがない。こちらもすごい話。宮崎監督は、映画を作りながら話を考えているそうで。

脚本ももともとありませんから、ストーリーが最後にどうなるか、スタッフも誰も分からないまま作品をつくることになるのです。

話の展開を知っているのはじゃあ宮崎監督ただひとり…というわけじゃなく、実は宮崎監督も分かっていません。

「宮さんは一本の映画で連載マンガをやってんだよ」プロデューサーの鈴木敏夫さんはそう説明してくれました。だから、映画に緊張感が生まれる、とも。

(略)たとえば『ハウルの動く城』では、どんどんお話があっちこっちに飛んでいきおもしろくはなっているのだけど、

これ最後どうするつもりだろうと心配になった鈴木さんは、制作の途中でなんども宮崎監督に尋ねたそうです。「これ、ちゃんと終わりますかね?」

宮崎監督は自信ありげに「大丈夫だ」と答えていたそうです。ところが、絵コンテもだんだんと完成し、あと残り三〇分を残すばかりとなったときに、宮崎監督が鈴木さんのところにやってきたそうです。「鈴木さん、どうしよう。お話が終わらない」

鈴木さんは困ったらしいのですが、「みんな、一緒になっちゃえばいいんじゃないですかね」と呟いたところ、宮崎監督は、「それだ!」と言って帰っていき、そしてあの『ハウルの動く城』の結末ができあがったそうです。

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書中にも指摘がありますが、作品づくりにおいて「自分でもわからない状態」を用意するのは、割と一般的な手法であるようにも感じます。

自分の話ばかりでなんですが、ぼくも高知に移住を決めたときは、「なんで高知にしたのかは、自分でもよくわからない」という状態でした。

あとから理由を繋いでいく感覚で、今を生活しています。この方が「謎」と「ワクワク」を表現できるんです。

まずは直感で表現(行動)して、あとから論理を記述していく、という感じが、今のコンテンツづくりのスタンダードになりつつある気がしています。

この先はどうなるのか、という点に関しては、かつてのシュルレアリスム運動のように「直感だけで、論理の接続は無視する」という方法が広がっていくのかな…とも思います。

とまぁ、いろいろ書きましたが、これはもう名著すぎるほどの作品なので、コンテンツに関わる人は絶対に読んでおくべきです。これが700円とか驚異的。7万円でも買いますよ、マジで。

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