日本において『無戸籍』である人の問題が取り上げられ、昨年から何度か耳にするようになりました。

日本の戸籍制度は非常に優れており、例えば私の家なら文政の年号までなら遡っていけますし、何処の誰が誰を両親に持つ者と婚姻したか?などが明確で、勿論そこから枝分かれしてどんどん辿っていける素晴らしいものなのは皆さんご存知かと思います。

私個人の感覚ですが、『自分が何処の何者か』という事が分かるのは非常に心強く、今後も大切に守りたい制度だと感じます。

なので、『無戸籍』という言葉を聞いた時には本当に衝撃を受けたものですが、今思うと『そうなのだろうか?』と、自分が遭遇した家族を思い出しました。

音だけの存在

私が一人暮らしをしていた2LDKのマンションは、半数以上が家族で入居しているという環境でした。家族と言っても間取りが間取りな為、その多くはまだ小さなお子さんが1人ぐらいの世帯かご夫婦だけというのがほとんど。窓が開いている時にお子さんの声が時々聞こえるぐらいで、皆さん常識的で静かなマンションでした。


平和な生活が3年ほど続いたある週末、のんびり部屋でくつろいでいると、突然上の方から聞いたことも無いような騒音が聞こえてきました。

「ドンドン!・・・・ドンッ!!」

「ダッダッダッ!」

何ていうのか、ソファーやローテーブルのような比較的低い物から床に飛び降りているような音と部屋中を走り廻るような音、それが真上から聞こえてきたのです。

そう、聞こえる感じでは真上なのですが、集合住宅の場合、実際の音の出方は特定するのが難しく、デリケートな問題なので一概には決めつけることは出来ません。それに、真上の部屋は年配のご夫婦と成人している娘さんという大人3人です。それにしてもなかなか終わる気配のない騒音・・・。

(続くようなら管理会社に言った方がいいだろうか?)そう考えていると1時間ほどで音は止み、その翌日からはまたいつもの静かな毎日が続き、すっかり忘れていました。

誰も知らない・・・

ところで、そのマンションにはたまたま知人が家族で住んでいたんです。家族と言ってもまだお子さんはやっと幼稚園。下の子が生まれるので時期引越しを考えているところでした。時々エントランスなどで会えば簡単な立ち話をしていましたが、ある時おかしな事を言い始めるのです。

「ねえねえ、あなたの真上の部屋、小さい子がいない?」そこで私は例の騒音の話をしてみました。実はあれから何度か、忘れた頃にあの騒音が聞こえるようになり、少しずつ増えてきていたのです。

知人によると、騒音は知人宅にも聞こえており、一部の住民の間では疑問になっていたそうです。さらに知人は、その部屋の娘さんが子供を抱いて慌てて部屋に入るのを目撃してしまい、大家さんに聞いたところ、

「あのお宅はご夫婦と娘さんの3人ですよ」と言われたそうで・・・・。

そう、ここで私達が推測したのは、彼女には世間に知られていない子供、つまり存在していない筈の子供がいるのではないか?と言う事でした。

住民の苦悶

その部屋からの騒音は、どんどん増えていきました。音で悩む人は増え始め、私も何度か管理会社に相談しましたが、全く改善されません。そのうち走り廻る足音は日常化していきます。

その頃まだ結婚前で時々遊びに来ていた夫は、管理会社の対応にしびれを切らし、ある時音が始まったのを見計らって遂に直接訪ね、確認することに。玄関に出て来たのは娘さんの母親でしたが、とても慌てており

「うちには子供はいません!いません!」

と、こちらがまだちゃんと話してもいないのに、大騒ぎです・・・。もう、これは確実に怪しいとしか言えません。

後日知人とこの時の話をし、知人もまた子供を抱いている姿を目撃してしまい、私達の間では「あの家では幼児を隠しているのかも」という疑問になっていきましたが、ここで悩み始めるのです。

それは、この頃世間でも騒がれ始めていた児童虐待に関することでした。確か、疑わしい事があったら通告しないといけないのでは?と知人は心配を始めたのです。

しかし、こういう場合は虐待になるのか?本当に彼女の子供なら、隠しているということは部屋に閉じ込めているのだから虐待では??

いろいろ考えますが、この通報に関しては非常にデリケートで、実際何とも答えは出ませんでした。例えば、たまたま一度大声で𠮟った為に、これを虐待と捉えた近所の人が通報してしまい、あらぬ疑いをかけられて大変な思いをした若いお母さんの話も聞いたことがあり、通告する方も慎重にする必要があるからです。

第六条  児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。

出典 http://law.e-gov.go.jp

結局、騒音はある時から程度は軽くなったものの頻度は増える一方で私は引越し、知人も二番目のお子さんが生まれて間もなく引越してしまい、その問題はその後どうなったのかは知りません。

私と知人は、顔を合わす度に思案しましたが、実情を知っていてもおかしくない筈の大家さんも『いない』と言うし、それ以上はどうしようもありませんでした。

まだ引越す前、私も一度だけそこの娘さんとお母さんが、子供を抱いて走る様に部屋に入るのを目撃してしまいましたが、実際その娘さんの子なのかどうかも知る術はありませんでした。大家さんや住人に隠しているだけかも知れませんし、知人の子を預かってるのかも知れません。何とも言えないのです。


最近良く耳にするようになった無戸籍者の話を聞いて、ふとあの家族を思い出し、(そういう事だったのだろうか?)と思う事もありますが、それも何とも確証の無い話です。何故あんなにかたくなに『子供はいない』と騒いでいたのかは疑問ですが・・・。

当時はやたら虐待の問題が取り上げられていた頃で、私達はそれしか思い浮かびませんでした。しかも、後から知った事ですが、大家さんの知人を介して住んでいた家族のようでした。

無戸籍者の問題は、ご両親の事情など、いろいろなパターンがあるようです。世間に存在を出せない子供だったら、かたくなさを考えるとあの時の子もそうなのだろうか?と、今考えても本当に謎の多い家でした。

虐待にしても、密室で起こっていることは周囲からは判断しにくく、力になりたくても実際はなかなか難しいと感じるきっかけになった家族でもありました。

この記事を書いたユーザー

石井ロージー このユーザーの他の記事を見る

音楽業界を経て、フリーのデザイナー兼ライターを生業にしております。ポジティブに解決したトラブルや実体験ネタを中心に書いています。8歳下の夫と愛犬の気ままな3人暮らし。音楽好きのゴシック好きの和服好き。オカルトも大好きでございます。好きな作家は芥川龍之介、詩人は中原中也☆

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