町には本屋さんが必要です会議

(長谷川書店 水無瀬駅前店の長谷川稔さん)

昨年10月、わたしは妻と二人、あるトークイベントに参加しました。

その名も「町には本屋さんが必要です会議」vol.16@大阪。

2014年の一年間をかけて全国各地で開催されてきた、「町の本屋さん」について考える会議の最終回でした。

わたしがこのイベントに参加した理由のひとつは、コーヒー焙煎屋を始める前(わたしは京都の大山崎という町でコーヒー焙煎屋をしています)、本屋の開業も検討したくらいの本屋好きのひとりとしてこの会議のタイトルに惹かれたこと。

もうひとつの理由は(こちらが一番の理由)、隣町(大阪府島本町)の大好きな本屋さん「長谷川書店 水無瀬駅前店」の長谷川稔さんが登壇すると知り、ぜひとも話を聞きたかったからです。

長谷川書店 水無瀬駅前店は、阪急水無瀬駅の改札を出てすぐのところにある本屋さん。一見すると普通の「町の本屋さん」で、実際にも普通の「町の本屋さん」なのですが、じっくりと棚を眺めると、そこには訪れた人の心をワクワクさせる本が並んでいます。

「町の本屋さん」のリアル

イベント当日、時間ギリギリで会場となる隆祥館書店(大阪)に到着したときには、すでに多くの人で満員でした。

会議は長谷川さんを含む3名の書店関係者の話を中心として進行します。そこで語られたのは全国の町の本屋さんの厳しい現状とそれを表す数字、そして、そこで戦う書店員たちの姿でした。

それは「トークイベント」なんて生やさしいものではなく、まさしく本気の「会議」。
軽い気持ちで参加したわたしは、少し恥ずかしくなりながらも、真剣に話に聞き入りました。

人口減少(特に子どもの人口減少)、大型書店やインターネット書店の台頭などに加え、ここ数年はスマートフォンによる情報収集に時間を費やし、本を読む時間が減少していく傾向も見られ、書店を取り巻く状況はさらに悪化しているといいます。

「町から本屋さんが無くなってしまう!?」

「そんなことがあっていいのか?」

本屋好きながら書店業界や出版業界のことにほとんど無知のわたしにとっては、この日の話は大きな衝撃でした。

その日の帰り道から「町の本屋さん」について頭の片隅で悶々と考える日々がはじまります。

『本屋会議』とモヤモヤの正体

そして2014年12月、一年間にわたる「町には本屋さんが必要です会議」の活動をまとめた『本屋会議』(夏葉社)が発売されます。

あの日から悶々としていたわたしは、さっそくこの本を購入。(もちろん長谷川書店で購入したことは言うまでもありません)

そこに書かれていたのは、やはり町の本屋さんの厳しい現状と、それを克服するための各本屋さんの取り組みの数々。

それらの取り組みはとても素晴らしく、努力、そして本と町を愛する気持ちがヒシヒシと伝わってきました。(このあたりの詳細はぜひ本を買って読んでください!)

ただ、なぜだか読み進めてもモヤモヤとした気持ちは収まらない。なんだか大事なことが抜けている気がしてならない。

そんなとき、この本で紹介されているひとつの事例が目にとまりました。

本屋を失いかけた北海道の町が、住民の力で本屋を呼び込むことに成功した「留萌ブックセンターby三省堂書店」の事例でした。

そしてさらに読み進めると、ある一文にモヤモヤの正体を見つけます。

いまこの時代に何かできるのは、店ではなく、我々読者の側なのではないか。

出典本屋図鑑編集部編『本屋会議』(夏葉社, 2014年)177頁

これだ!

書店業界の環境が悪化していること、それはわかった。

町の本屋さんたちは工夫を重ね、がんばっていること、それも(痛いほど)わかった。

では、「わたしたち」は何をしているのか?

「読者」であり「町の住民」である、「わたしたち」のことを考えなくてはいけない。

町から本屋さんを無くさないために、僕らに何ができるだろうか

そもそも町から本屋さんが無くなってもいいと町のみんなが思っているのであれば、仕方がないのかもしれません。でも、わたしにはそうは思えないし、思いたくない。

「競争原理や市場原理で町の本屋さんが無くなるんだったら仕方がない」という考え方もあるかもしれません。

でも、「町の本屋さん」の存在価値は経済やビジネスの話で完結する問題ではありません。それは町の文化の問題でもあり、経済成長率では計れない町の成熟度の問題でもあるのです。

そのことは、意識的か無意識的かはともかく、多くの人がすでに分かっている(感じている)ことだと思うのです。

じゃあ、僕らに何ができるのか?

まずは町の本屋さんに足を運んでみることからしか始まらないんじゃないかと思います。

子どもを連れて本屋さんに行ってみたら、子どもの未来が広がる瞬間が増えるかもしれない。友だちとの待ち合わせ場所を本屋さんにしてみたら、友だちの意外な一面を見つけることができるかもしれない。

これらは、本屋さんに行ったことで起こる楽しい体験です。

「町には本屋さんが必要です会議」の発起人のひとりである夏葉社の島田潤一郎さんは、ブログで以下のように書いています。

「本屋さんでもっと本を買いましょう」といった、ひとつのスローガンに集約されてしまうことには、すこし抵抗を感じます。

ぼくは、ある時期まで、そのような気持ちで本屋さんと接していましたが、「なにか一冊本を買わなくちゃ」という思いで立ち入る「町の本屋さん」は、すくなくとも、楽しい場所にはなりません。

出典 http://machihon.hatenablog.com

いまわたしたちにできることは、本屋さんをもっと楽しむことではないでしょうか。

本を買うための場所としてだけではなく、わたしたち自身がもっと広い視点を持てれば、本屋さんにはもっとたくさんの価値があることに気づき、もっとたくさんの輝きを放つと思うのです。

何かと慌ただしい毎日の中で、わたし自身、普段なかなか本屋さんに行けないのですが、時間をつくって町の本屋さんに入り、棚を眺めたり、書店員さんと世間話をしたりして、本屋さんを楽しみたいと思います。

わたしの住む町に、ずっと本屋さんがあって欲しいから。

(文と写真:中村佳太)

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コーヒー焙煎家でたまに物書き。“暮らしたい町で暮らそう”と2012年に東京から京都府大山崎に移住。翌年「大山崎 COFFEE ROASTERS」を開業。地域の魅力的なモノゴトを残すべく“まちのこし”活動を実践中。前職はビジネスコンサルタント。1981年生まれ。

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