700年以上続く住民投票の方法

[ランツゲマインデ]と呼ばれる全てが住民の挙手によって決められる青空議会はこの州で14世紀から続く直接民主主義の選挙制度です。村の広場に全員が集まり1年の中で行われる大切なこと、例えば州議員、公共工事、法律の改正、等々の様々なことを全て住民投票で決めていきます。そして議長が読み上げた議題に賛成か反対かを挙手で表明します。

出典 http://www.blick.ch

この様に色の付いた紙を手に持って数える時に見て分かりやすいようにします。

年に一度の投票日はお祭り騒ぎ

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この州の中にある各市町村が各々にパレードを繰り広げ、ブラスバンドを引き連れて村内を練り歩きます。そして住民が年に一回の住民投票を始める準備が整ったところで2時間あまりに渡る投票が始められます。

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伝統的な催しなので、このように伝統衣装を纏い、サーベルを腰に挿げて投票に向かう人も沢山います。

スイスで最も保守的な州アッペンツェル

元々はスイス26州のうち8州で行われていたランツゲマインデも今ではたったの2州でしか行われていません。それも定期的に行われているのはアッペンツェルでのみなんです。

そして女性の社会進出が盛んなヨーロッパにおいて、1991年まで女性の参政権が認められなかったことでも有名なアッペンツェル。最後はスイスの連邦裁判所より強制的に女性の参政権を認めさせられました。

しかしながら参政権が無いからと言って、女性の意見が政治に反映されていないとも限らないようです。

「最初わたしは女性の投票権には反対だった。それは、我々の伝統の1つが失われることになると思ったからだ。それに我々女性はいつも夫に何をどのように投票するか命令してきたわけで、私達は政治に声を反映できないなんて思ったことはない。」とマリア・ハンムさんは語る。

出典 http://www.swissinfo.ch

もっとも住民の意見を反映しやすい反面、反対意見には断固たる意志が必要

ランツゲマインデには匿名性が皆無なことは認め、ランツゲマインデに出席するには反対意見を公然と表明することも覚悟しなければならないと述べた。また、この点に関してレームさんは「若い世代は公の場での挙手投票は好まない。10年から15年の間には、ランツゲマインデはなくなるかもしれない。わたしは伝統が好きだから、ランツゲマインデがなくなったら私は悲しいが。」

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やはり時代の移り変わりに逆らえない側面もあるのでしょうか。ここ数年で急速にプライバシーの保護に関しての法案が成立されてきた欧州において、この州だけがいつまでも匿名性を一切保てない投票方法では現代人にとっては投票しにくくなることも出てきてしまうのでしょうか。

人口6000人程のこの州で、参政権を持った4000人程が広場に集まり投票をするというシンプルで伝統的なこの方法もいずれ無くなってしまうのかと思うと残念な気もします。

しかしこの州の知事は楽観的でランツゲマインデが無くなる心配などは一切していないようです。

「政治制度は人為的なもので、人為的なものは全て刹那的だ。が、もしランツゲマインデ最後の日を予想しろと言われるならば、2000年後と答えよう。」

出典 http://www.swissinfo.ch

どうやって数えてるの?

筆者も一番気になっていたところですが、この村出身の友人に聞いたところ「大体」で否決か可決を決めているようです。ここまで伝統にこだわったので、そこも700前のままなんでしょうか。

色の付いた紙を持って賛成反対の挙手をして、見た感じ多い方に決を採る、と言うことのようです。とことん原始的な手法ですがこれもスイスの伝統です。

スイスならではの地方の個性

26州全てが自治州のスイスはそれぞれの州全てに全く違う法律があり、各州お互いに一切干渉し合わないことで、それぞれの州の伝統を守り続けています。スイス連邦議会も限りなく州の方針には口を挟みません。議会自体も各州2人(準州は1人)の連邦議会議員から構成されており、それぞれの州の代表が州のやり方を守りながらスイス連邦という国を上手く進めて行く為の政治を行います。

その裏側には、中世ヨーロッパでの大国からの侵略を防ぐ為に小国同士が一つのスイス連邦という国になって、内政干渉をせず、尊重し合いながら大国の侵略に対抗しようとして出来た国だからこそ、団結力はあるのに互いに口出しをせず、各州(元々は日一つずつの国)がそれぞれの伝統を守ることが出来るのです。

年に1回行われるランツゲマインデは、そんなアッペンツェル州の人たちが自分たちのアイデンティティを確認するための最良の機会であり、いつまでもスイスという国がスイスらしくある為の象徴でもあるような気がします。

近年ハイキングブームでスイスの山歩きが流行っているようですが、そんな山の中にある国だからこそ生まれた歴史と、その歴史を現代でも感じられるアッペンツェルにも是非訪れてみて下さい。

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”旅するように暮す” をモットーに現地で稼ぎ現地を旅します。
冬はイタリアとスイスでスキーガイド、夏も海外のどこかで何かして働き、色々な土地で暮すことによって、旅する時とは違う視点で世界を覗き、そこで感じたことを記事にしています。ブログ[旅と写真といい女] http://www.ysk44.com でリアルタイムに情報発信中
春と秋は世界各国を放浪し、いずれは国連加盟国193カ国全てに訪れたいと考えていて現在66カ国訪問済み。海外在住者でも無く、典型的な旅人でも無い、中途半端で、でも他にはいないであろう新しい形のライフスタイルを目指してます。

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